唯一と一番−20
そうして二人で砂浜を歩いていたときだった。
「ね、そこの二人。良かったら一緒にこのあとクラブでもどう?」
二人組の水着姿の女性たちが声をかけてきた。ブロンドの長い髪は、確か何度かロビンと一緒にいた女性だ。唯斗から見ても美女と言える人たちだと思うし、男たちの視線を集めている。
思わず小さく息を呑んでしまったが、直後、ロビンは唯斗の腰を抱き寄せると、軽く唯斗のこめかみあたりにキスを落とす。
「悪いけどお姉さま方。俺は世界で一番、こいつが優先なんでね。二人の時間にさせてほしいんですわ」
「え、ちょ、ロビン」
さすがに名前も知らない相手の前で関係を明かされたのは初めてで、唯斗は顔に熱が集まるのを感じるが、女性たちも顔を赤らめた。
「え、そうなの?」
「こんなイケメン二人で…なるほどねぇ…」
「こちらこそ良いもの見せてもらったっていうか…ま、それなら邪魔はしないわよ。楽しんで」
「おう、そちらさんもな」
女性たちはにっこりとしてから別の場所へと歩いて行った。ぽかんとしてしまうと、ロビンはそのまま唯斗の腰を抱いて密着した姿勢で歩きだす。
「あいつ、会話する分には楽しかったが、毎回、唯斗のこと考えてんのバレたんだよな」
「俺のこと?」
「今何してっかな、とか、根詰めてねぇかな、とか。ついあんたのこと考えちまってた。そんで毎回、あいつに『別の人のこと考えてるでしょ』って指摘されててな」
苦笑しながら、ロビンは空いているパラソルの下にあるビーチチェアに腰かける。二組並んでそこに、唯斗もロビンの右側に座った。
「…そんな考えるくらいなら、最初から唯斗とこうしてデートしてりゃよかったのにな」
「ナンパ相手に見せたものとか連れてったとことか、俺には見せてくれねぇんだなって思ってた」
「うぐ…」
素直に言うと、ロビンは言葉に詰まる。「マジですんません…」と消沈したように謝ってきたため、唯斗は手に持っていたジュースのストローをロビンの口元に差し出す。
ロビンは一口啜って、こちらに視線を向けた。手元にジュースを戻しつつ、唯斗は、沈み始めた夕日を見やる。
「今日、こうやって俺のこと優先してくれたし。昨日もそうだったけど、これから先ずっと、こうやって俺を特別だって思ってくれるんだろうなって思えた。だから、もう気にすんな」
「…そうですね。やらかしてしまった罪悪感はずっと忘れないでいますけど。それは唯斗を甘やかして愛してく形に変えていきますよ」
波の音が繰り返し、次第に喧噪も落ち着いたものに変わっていく。大きな太陽が海の向こうに沈んでいき、まばゆいオレンジの光に照らされた。ロビンの元からオレンジがかった茶髪はキラキラと輝いて見えた。
「俺も、今この瞬間のこと、今日のこと、今回の出来事、今までの旅路、全部忘れないで生きていく。ロビンといつか、別れる日が来ても、日本に戻ってまた一人で生きていくとしても」
「唯斗…」
「俺の人生で、ただ一人、一番大切で愛した相手だから」
そう言うと、ロビンはこちらに身を寄せる。ぎしりとビーチチェアが軋み、唯斗の顔に影が落ちる。
唯斗のチェアに手をついて、上体を覆いかぶさるように近づくと、唯斗の唇に自身のものをそっと重ね合わせた。
外だから、とか、いきなりすぎる、とか、いろいろ言葉が浮かんだが、口に出ることはなかった。
「俺にも唯斗だけだ。愛してる」
至近距離でそう囁いて、前髪越しの瞳も合わせて甘い視線を向ける。
言葉以上に雄弁なその目に、もうそれ以外はいらなくなった。視界を埋める最愛の人だけで、ほかのことはどうでもいい。
「…うん。ロビンと一緒でよかった」
「最後までずっと一緒にいますよ」
その最後がいつになるのか、この先のことは分からない。それでも唯斗は、きっとこの先の人生、ロビンが唯一で一番だと確信できるのだ。