Égalité−13


ルクセンブルクよりも気温も湿度も高い東京。
夜になっても気温が下がりきらないことに早速辟易としながら、唯斗はリビングにコンビニで買った夕食を並べる。

東京の唯斗の家は、学生時代に使っていたのが現代風の一軒家部分のみで、長らく使っていなかった和風の本邸は大かがりな片付けをしてから、業者に依頼して一部を改装、古民家風のカフェにする予定だった。
日本で一番住みたい街だという郊外の駅前、大きな公園に面した一等地にある立地をこれほど感謝したことはない。

とはいえ日本にやってきたばかりの唯斗、サンソン、ギャラハッドの3人は一軒家部分の掃除で疲れ果ててしまい、東京での生活の最初の晩餐はコンビニとなってしまった。


「サンソン、ギャラハッド、飯食うぞ」

「はい、今行きます」

「唯斗さん、コップはこれでいいですか?」


サンソンは洗面所で手を洗ってからリビングにやってきて、ギャラハッドはやっと冷え始めた冷蔵庫から取り出したお茶を持ってくる。
クォーターの唯斗と違って二人は完全に白人であるため、一般的なこの日本の家にいる光景がなんだかアンバランスで少しおかしくなる。


ブリュッセルでの話し合いをもって、ギャラハッドを巡る問題は一通り解決した。
レンヌの実家も、エレーヌもギャラハッドの意思を尊重すること、そしてランスロットが直接ギャラハッドに対する責任を負うことを明らかにした。
ギャラハッドはソルボンヌ大学をやめたが、フランスでの大学中退はそれほどネガティブなことではない。ギャラハッドはそのまま日本の一流私立大学への留学を決めて、学費はランスロットが負担する。
ランスロットは、なるべく唯斗とともにロンドンに顔を出して欲しいと言ったが、ギャラハッドはやはりにべもなく拒否していた。

ブリュッセルでの話し合い以降、ランスロットと直接連絡を取り合うようになったギャラハッドは双子の妹・マシュを心配していたが、ランスロットの話ではスコットランドのローランド地方で知られる名士・キリエライト家におり、マシュも今はカナダに留学して楽しそうにしているらしい。
それを知ってギャラハッドはついにすべての懸念を払拭して、いつでもフランスを離れられるようになった。

同じ頃、唯斗も日本に戻る手続きや退職も済ませ、サンソンも退職とビザの取得を終わらせたため、夏の終わり、9月には揃って東京へと移り住んだ。
サンソンもギャラハッドも英語は話せるが日本語はからっきしだ。これからたくさんの困難もあるだろうが、全員、今までで一番未来への期待を感じていた。


「寝室は2部屋なんですね。僕と唯斗で一緒に寝てギャラハッドは一人にさせてあげましょう、難しい年頃ですから」

「子供扱いはやめて欲しいですね、サンソン。年上のあなたに配慮して僕と唯斗さんで一緒に寝ます」

「遠慮しなくていいよ、僕と唯斗はすでに一緒に寝たこともあるからね」

「それならむしろあなたが遠慮して僕に譲るべきでは?」

「うるせぇぞ、飯食え」


唯斗が窘めると、育ちがいい二人はすぐにパスタを食べ始める。まだ箸を使うのは速いと判断して、唯斗は洋食で揃えて買ってきた。

それにしても、なんだかギャラハッドからもサンソンと同じような感情を向けられてしまっているが、二人とも、関係性にそれを反映させるつもりは当面なさそうだ。唯斗もその点については特に触れる予定はない。関係性など、名前をつける必要はないし、そもそも日本のように告白して関係をはっきりさせるようなことはしないのだ。


「唯斗さん、このコンビニの食事は非常に美味しいですね。こんなものが気軽に手に入るなんて、確かに素晴らしい国です」

「ウォシュレットを発明した人物は当然ノーベル賞を受賞しているのですよね?」

「期待通りのリアクションだな」


やはりコテコテの外国人らしい反応の二人に唯斗は呆れつつ小さく笑う。

3人で東京での暮らしを始めた日の最初の夕食はコンビニ飯となったが、それまで食べたどんな食事よりも美味しく感じられた。
何よりも、この家で初めて誰かと食事をして、空虚だったリビングに会話や笑いが響いているという事実は、唯斗に最も強く一緒に誰かと生きるのだ、という実感をもたらした。

これが、帰る場所なのだ。そう理解して、涙を堪えて帰路についたあの日々が、初めて報われたような気がした。



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