Hide and seek−5


ロンドンから帰還したときより始まったこの感情の発露を、唯斗はそのように理解していた。
唯斗はこの旅にはいてもいなくてもいい不要な存在だと自覚し、無力感から、このまま消えてしまえればいいのにと思っていた。


「じゃあ、やたら変なところに1人でいたのは…」

「うん、少しでも、自分がなくなってくように錯覚できる場所を探してた。お前にことごとく見付かって、もしかしてこの感情がバレてんじゃねぇかって怖くなって、それでアーラシュに相談してたんだ」

「俺に千里眼なんてねえっつの…いや、そんなこと思ってるなんて知らなかった。ただ、なんか抱えてて、それで1人になろうとしてんのかと」


どうやらロビンは知らずに唯斗を探していたらしい。そうなると、なぜそんなことをしたのかという疑問が出てくる。動機が分からないのだ。


「なんでわざわざ?」

「いやそりゃ探すっしょ、放っておけるわけねぇですし?」


見上げたロビンの顔は、さも当然、というものだった。本当に、ただ唯斗を心配して声をかけてきてくれていたのだ。


「じゃあなんで、途中から来なくなったんだよ。ロマニに言われたときしか、探しに来なかっただろ」


唯斗が尋ねると、途端にロビンは答えづらそうにした。言いあぐねるのを見つめていると、ロビンは観念したように口を開く。


「…東方の大英雄に相談してたって話だったんで。俺じゃねぇのかよって思ったら、まぁ、なんつか…」

「……え、拗ねてたのか?」

「デリカシー!!いやまぁ、そうですけど!!そこは俺を頼るところっしょ!?俺がどれだけあんたのこと大事にしてると思ってんだ!」


逆ギレのように言ってきたロビンに、唯斗は驚く。基本的に大人っぽい青年だ、そんな理由だとは思わなかった。しかも、はっきりと「大事にしている」とまで言われてしまった。
この男にしては珍しいストレートな言葉に、唯斗はじわりと、あれだけ心に巣くっていた消えたいという感情が薄れていくのを感じた。

そこで、アーラシュに言われたことを思い出す。悪いようにはならない、というのは、こういうことだったのかもしれない。

ロビンはすべて言葉にしてくれた。こうして探しに来て、行動で示してくれた。
だからこそ、唯斗はようやく、自分の本当の感情を理解した。


「そっか…俺、消えたかったんじゃない。必要とされたかったんだ。必要とされないから、消えたかった。本質はその手前にあったんだな」

「マスター…」


自分のいる意味に疑問があったとき以外にも、この感情が姿を現した理由が分かった。そもそも唯斗の感情の本質は別のところにあったのだ。


「誰かに、必要とされたかった。必要だって言って欲しかった。俺がここにいていいって、ここにいるべきだって実感したかった」


ようやくロビンの温もりで、意識も声もはっきりした。そうしてすべてが言葉になった。


「ただ…見つけて欲しかったんだ。俺のこと、俺のいる価値を」

「そんなん…っ、俺が何度でも言ってやる。俺はあんたが大事だ。報われないと分かってるのに、歴史への敬意だけで踏ん張ってるところも、相手をまっすぐ捉えるところも、誰に対しても誠実なところも。全部、愛しいんだよ」


普段は見えない右目も、今は前髪越しによく見える。ロビンのタレ目から覗く綺麗な瞳がまっすぐ唯斗を縫い止めている。


「…ロビンが、サーヴァントとしてでも、誰かに言われてでもなく、ただ俺のために俺のことを見つけてくれたって分かって、嬉しい…おれ、うれしいんだ…!」


心の底から安堵がさざ波のように広がって、それによって視界が滲み、声が震える。今までずっと、ロビンがただ唯斗のために唯斗を探してくれていたのだと分かり、やっと、地に足がついたかのようだった。
ロビンは唯斗のことを強く抱き締める。


「マスターはもうちょい自惚れてくれていいんですがねぇ。あんたが思ってるよりずっと、俺に愛されてるって、俺に必要とされてるって」


唯斗も、ロビンの胸元にすり寄り、マントにくるまって温もりを享受する。


「…ロビン、」

「ん?」

「名前、呼んで欲しい。もしも、その、マスターとしての俺じゃなくても、大事に思ってくれるんならだけど」


唯斗の言葉に、ロビンはぐっと色々堪えたような顔をする。


「またそういう…ま、あんたの過去のこと考えりゃ、急に自分に自信持てたりはしねぇよな」


そう言いながら、ロビンは唯斗の頭を撫でつつ額にキスを落とした。いきなりのことに少し驚いたが、まったく嫌ではない。


「こーんな可愛いやつ、大事にしねぇわけねぇっしょ?どろどろに甘やかしてやるからお覚悟しとけよ」

「え…」

「…これからも俺が見つけてやるさ、唯斗」


耳元で囁くように名前を呼ばれ、急に顔に熱が上る。部屋との温度差で結露でもできそうなほどだ。というか、「愛しい」という言葉にしても、今のキスにしても、もしかしなくても「そういうこと」だろうか。
茹で蛸のようになっている唯斗に、ロビンは満足そうにする。


「さぁて、さすがにそろそろ部屋戻りますよ。そんで、可愛い可愛い俺のマスターを甘やかしてやるとするかね」

「ま、まってロビン、その、なんつか、心の準備っつか、」

「待たねえ。消えたいなんて二度と思えないくらい、俺がどんだけ唯斗を大事に思ってるかってのを分からせてやらねえとなんで」


そのままの体勢で立ち上がったため、唯斗は姫抱きにされている状態だ。こんなところを藤丸やサーヴァントたちに見られたら、盛大にからかわれてしまうだろう。


「や、恥ずかしくて今消えてえけど!?」

「消えたくなったら隠してやるさ」


ふと魔力が漲る気配がして、唯斗は自分の体を見渡す。見事に姿が見えなくなっていた。ロビンのマントに包まれているため、そのまま宝具が発動して唯斗は姿が消えているのだ。


「今回に限らず、消えたいときはあるでしょうよ。そんときは、俺が隠してやる。隠すのも、見つけるのも、俺がやる。だからきちんと頼ってくれよ」

「…一緒に消えてくれんの」

「おう。全部一緒だ」


ニッと笑った横顔があまりにも格好よくて、唯斗は姿が隠れていて良かったと思った。
消えたくなったら一緒に消えてくれる。自分が曖昧になったら、見つけてくれる。きっとそれは、「そばにいる」というのを言い換えたものなのだろう。


「…じゃあ、まずは、ロマニに怒られるところから一緒にな」

「仕方ないですねぇ」


きっとロマニからはさすがに怒られるだろうが、こんな状態の二人を見れば、ロマニも呆れながら「仕方ないな」と言って許してくれるだろう。
そうやってロビンがそばにいてくれるなら、唯斗はもう、自分のいる意味を迷うことはない。



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