Empathy−1


魔術王ソロモン、真名ゲーティアによる人理焼却後、カルデアは7つの特異点を修復し終局特異点でゲーティアを撃破。
魔神柱の生き残りを討伐する4つの亜種特異点の修正も完遂したものの、今度は人理漂白によって地球のテクスチャは消失。白紙化した地球において、7つの異聞帯の剪定を行う旅が始まった。

この一連の旅において、カルデアのマスターは二人、ということになっている。そう断言できないのは、その一人である唯斗はサーヴァントとの恒常的な契約をしていないからだ。

主たるマスターは藤丸立香、活発で元気な少女であり、年齢的には唯斗の一つ上にあたる。ただ魔術師としてはど素人であり、これまでの旅において、藤丸はサーヴァントの現界のための楔としての役割が主だった。
そのため、カルデアで契約する恒常的なサーヴァント契約は藤丸が担っており、今や200を超す英霊との契約が存在する。

一方、唯斗は現地でのサーヴァント契約を藤丸と共同で担う。サーヴァントの性質や状況によって、現地限定での仮契約を藤丸か唯斗かで行っており、藤丸はそのときの縁を辿ってカルデアでも契約することになることが多い。
これは、藤丸とマシュが探査に慣れたころから、唯斗が単独行動で調査を行ったり潜入を行ったりと、魔術師としての活動を行うことで役割が明確に分かれるようになったことが背景にある。
カルデアでの恒常的な契約を唯斗が行っていないのは、リソースを藤丸に集中させるためだ。

しかし、そんな状況に変化が訪れた。
彷徨海のカルデアがUオルガマリーによって破壊され、ストームボーダーを基地とするようになった中でのことだった。

ブリッジに呼ばれた唯斗は、幼くも可憐な笑顔で迎えたダ・ヴィンチに驚きの提案をされる。


「ということで、大量のサーヴァントを一挙に送り込む作戦のため、唯斗君にもサーヴァントの契約を結んでほしいんだ」


第七異聞帯、南米に座す巨大なそれの剪定を前に、カルデアではサーヴァントの大量投入という作戦を立案しており、その一環として、唯斗にも契約をしてほしいということだった。


「フランスからここまで来たら、なんか今更って感じだな」

「今こそ、と考えて欲しいな。とはいえ君も恒常的な契約は初めてだし、君は自他共に認めるコミュ障だろう?まずは1騎から慣れていこうじゃないか」

「だいぶマシになっただろ」

「うん。だから今こそ、だよ」


そう言って笑うダ・ヴィンチの笑みには、記録としてしか知らない南極での唯斗と、実際に見聞きしてきた唯斗とを総合して考え、随分と「人間らしく」なったことを純粋に喜んでくれていることが分かる。


「まぁ、とりあえず了解した。カドックは?あいつだって契約できるだろ」

「彼はね…。打診はしたんだが、後にも先にも、契約するサーヴァントは『彼女』だけだそうだ」

「あいつ、そんなこと言うんだな」

「カドックも君にそう言いたいことがたくさんあったと思うよ?」


先日、オリュンポスで受けた傷が回復してようやく目覚めた元クリプターでありAチームのカドック・ゼムルプスも、本来はマスター適正を持っている。しかし、カドックはどうやら第一異聞帯で別れたかの皇女以外、契約する気はないらしい。
「愛だな」くらいは言いそうになったが、それこそダ・ヴィンチに「君もそんなこと言うんだね」とからかわれる。都合の悪いことも言われたことだし、この話はこれ以上掘り下げないことにする。


「…それで?召喚はいつやる?」

「今日にでもやってほしい。君は召喚術の名家の出だ、補助はいらないと思うけどどうだろう」

「大丈夫、一人でいい。じゃあ30分後くらいにやるから、こっちでモニタリングと霊基登録だけやっておいてくれ」

「了解!楽しみだねぇ」


藤丸の契約サーヴァントを見ていると、やはり英霊とは癖の強い存在だと改めて感じる。楽しそうにしているダ・ヴィンチだが、コミュニケーション能力がようやくマシになってきたばかりの人間一年生である唯斗としては、難しい英霊だと困るところである。

それに、と管制室から通路に出て内心ため息をつく。

藤丸が一人でも十分やっていけて、カドックも目覚めて、そもそも唯斗が今更サーヴァントと契約して役に立つのだろうか。

やはり今更だ、と独り言ちて、再びため息をついた。



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