Empathy−2
30分後、召喚ルームにて術式の前に立つ。
部屋には誰もいないが、管制室でこちらの状況は常に確認してくれている。また、有事に備えて魔術障壁が自動で起動するようになっているため、万一にも召喚されたサーヴァントが攻撃してきても一回までなら耐えられる。
術式に手をかざし、詠唱を行う。いくら召喚術の家といえど、英霊召喚は本来決戦術式、こんな軽々と行うような代物ではない。それをポコポコと繰り返した挙句、水着霊基なんてものまであったのだ、冷静に考えてここはおかしい。
やがて詠唱を終え、術式が青白く発光する。
そしてついに、術式から大きな魔力反応が現れ、エアロゾル化した魔力の霧が噴き出した。その中から、小柄な影が現れる。
「新選組八番隊隊長、藤堂平助。クラスは…、アヴェンジャー、か。いや、なんでもない」
なんと、現れたのは日本の英霊であり新選組の隊士であった藤堂平助。青にもグレーにも見える薄い髪色に青い瞳、現代風の装い。
先日修復したばかりの特異点で出会った人物そのものだった。
「召喚に応じたからには精一杯やらせてもらう。先手を務めるのは慣れているから、いいように使ってくれ」
「あ、あぁ、応じてくれてありがとう、俺は雨宮唯斗。よろしく」
「よろしく頼む」
とりあえず自己紹介をするが、どうやら唯斗含めカルデアのことはニュートラルに捉えているようだった。
先日、京都に出現した特異点では、松永弾正を犯人とする新選組への復讐劇が繰り広げられ、近藤勇をはじめ新選組の主要メンバーが一堂に会することとなった。
その中で、新選組への復讐の中心にいたのが藤堂だった。
その復讐を止めてしまったわけだが、確かに考えてみれば、復讐対象であった新選組とは最後に折り合い、ともに弾正と戦った。カルデアのことも、もう復讐相手の味方とは思っていないようで、だからこそ召喚に応じたのだろう。
「とりあえず、霊基登録とかは管制室がやってるから、今はここを案内がてら、俺たちの目的とかを共有させてほしい」
「人理漂白、だったか。大変なことになっているんだろ」
「そう。窓から見えると思うぞ」
そう話しながら、唯斗は藤堂とともに廊下へ出る。
唯斗とは10センチちょっと背が低いようで、これは史実通りだ。一見すると少年ように見えなくもないが、体の厚みや佇まいは青年のそれだ。
斎藤一とは同い年だとされているが、あちらは老齢まで生きたため、貫禄という点では年相応に見える。
窓までやってくると、藤堂は驚いたように目を見張った。
「…、これが地球か。そもそもこんな高いところを飛んでいるのが信じられないけど…本当に、何もかも消えてしまったんだな」
「あぁ。今この地球で生きているのは、この船にいる人間だけだ」
「…こんなのをどうにかするなんて、幕末でちょっと剣をふるっていただけの僕に、できることなんてあるのか」
随分と卑屈なことを言い出した藤堂に、唯斗はなんと言ったものか逡巡する。いかんせん、新選組の面々はこういうことは言わなかったし、ほかの英霊でも少数であったようなので、藤堂の気質なのだろう。
恐らく、生前からこうだったのではなく、死後に自分の人生を振り返り、こう思うようになったといったところか。
「……全員にできることをやってもらうんだ。藤堂さんの時代だって、誰もが必死に生きてきただろ。その結果が歴史を作るんだ」
「…、確かにそうだな」
ふっと小さく笑う藤堂。自分にできることがあるのか、なんて考えても答えは出ない。誰もができることをやる、その結果が未来を創るのだ。