死が分かつまで−1


「なんか唯斗と原田さんって似てるよね」


レイシフトした第三特異点、海を走る船の上で潮風を浴びていると、カルデアの主マスターである藤丸立香にそう言われた。
青空や青い海を思わせる綺麗な瞳をした少年は、過酷な闘いを感じさせない人畜無害な笑顔であり、隣のファーストサーヴァントであるマシュも「確かに」とうなずいている。

一方、言われた方の唯斗と、隣に立つ長躯・原田左之助はきょとんとしてしまった。


「え…共通点が日本人ってことしか思い浮かばねぇんだけど。つかそれすら四分の三だしな」


フランスと日本のクオーターである唯斗は、自身の唯一の契約サーヴァントであるランサーにして、新選組十番隊隊長の原田を見上げ、立香の意図が分からず困惑する。
身長差は実に17センチ、筋肉に覆われた立派な体格、そして目つきが悪く一見するととっつきにくそうなのに、すぐ人の懐に入れるコミュニケーション能力。
首をかしげる唯斗をよそに、原田はひとつ頷く。


「なんとなく大将の言わんとすることは分かるっす」


原田は、立香のことは大将、唯斗のことはマスターと呼ぶ。カルデアのメインのマスターが立香であることを踏まえてだ。新選組だから、というには例外だらけなのだが、原田は少なくとも体育会系気質であり、そういうところは厳密だった。
第一特異点から帰還後に召喚した原田との付き合いは、そう長いというわけでもないのだが、どういう人物かはさすがにある程度理解している。

どうやら原田は立香の意図を理解しているようで、この場で分かっていないのは唯斗だけだ。


「ほら、唯斗も原田さんもまっすぐ物事見てるし、だからか言葉もまっすぐじゃん?でも言われて嫌な気持ちにならないっていうか」

「お二人とも相手を思ってのことなので、その誠実さが伝わるからでしょうか」

「俺はこんなコミュ力ないけどな」


どうやら、唯斗と原田のずけずけものを言うところに似ていると感じたらしい。
先ほど、峰打ちで済ます範囲や必要に応じて相手に致命傷を負わせることについてひと悶着あったところだ。その際、ストレートに述べた唯斗のことを念頭に置いている。

唯斗は自他共に認めるコミュニケーション能力の低さがあり、それは単にこれまで人付き合いをまったくしてこなかったことに起因する。正直、魔術師はみんなこんなものだ。
一方、原田はいつの間にかいろんな文化圏のサーヴァントと親しくしており、日本の英霊に限らず多くの英霊と酒を飲み交わしていた。
酒の席があるというだけで関係は深まるだろうが、そういう部分だけで仲良くなれるほど英霊というのは単純ではないことが多い。癖があるから英霊たりえる。

できる限り相手を殺したくないという立香、必要に応じていとわない唯斗、意見の相違は第三特異点で大きくなってきている。
多くの英霊たちにとっては、立香のような人間性の方が好ましいと思うだろうし、事実、立香のこういうところこそがグランドオーダーに必要だ。

唯斗は、いてもいなくても同じなのだから。


「俺に優しさやら誠実さやらがあるなら、言われなくても峰打ちで済ませてた。さっき俺に怒鳴られたロマニが報われねぇだろ」

『うーん、唯斗君の言っていたことも事実だしなぁ。それに、藤丸君の言っていることはそういうことじゃないだろう?』


通信越しにロマニが答える。さきほどの戦闘で、唯斗が立香に非合理的だと指摘していた際、ロマニがなだめようとしてきたため、そもそもお前がそういう教育を怠っているのだろうと述べたのだ。
ロマニは「とばっちりだ」と情けない声で応じていたが、その実、この男はまったく気にしてなどいないだろう。そういう、のらりくらりとした強かさがある。


「そうそう、ドクターの言う通り。俺やマシュのこと考えてのことでしょ?そんで、この任務全体のことでもある。俺も、唯斗の言ってることが間違ってると思ってるわけじゃないよ。大事にしたいことが違うだけ。そんでもって、俺は唯斗に大事にされてる」

「なっ、お前な…」


にっと笑う立香に、唯斗は言い返そうとしたが、むきになる方が恥ずかしい場面だ。分かっていてそう言った立香は、やはりこの手の会話で勝てる相手ではない。
「くそ…」と負け惜しみのように顔をそらすしかない唯斗に、ずっと見ていた原田は小さく笑う。


「勝負あったっすね。でも、大将も分かってるならあんま危険なことはしちゃだめっすよ。マシュさんやマスターが常に守れるとは限らねぇんすから」

「はーい」


こうやって場をとりなすようなところに、原田が人に好かれるゆえんがあるのだろう。立香のことも唯斗のことも立て、どちらも否定・肯定せず、しかしきちんとラインを引いて決着をつける。
こういう気遣いができるあたり、やはり近代人の英霊だとも思う。

やはり、唯斗と似ているとは言えない。唯斗にはどうしても、こういうところまで人の機微を理解する能力が、人間として大切なことが、決定的に欠けている。



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