死が分かつまで−2


第三特異点、そして第四特異点の探索を終え、唯斗はニコラ・テスラとの戦闘で負った傷も癒えて復帰した。
そもそも第四特異点では、ロンドンに立ち込めた魔霧の影響でまともに動けなかったこともあり、ここのところ立香に負担をかけすぎてしまっている。

そのため、近々予定されているレイシフトを代わろうと買って出たのだが、ロマニや立香が了承する前に原田に止められてしまった。
どうせ一緒にレイシフトすることになるからと原田を伴って管制室に行ったのがまずかった。唯斗が切り出した瞬間に「は?何言ってんすか?」と真顔で詰められ、ロマニたちが何か言う前に、唯斗は言いくるめられてしまった形だ。

ロンドンから帰還して以来、どことなく原田の唯斗に向ける目線の質が変わったように思う。
これまではフラットというか、一緒に戦う相手、というくらいのものだったように思う。唯斗自身がプライベートな会話をしないため、原田との接点はレイシフト中に限られ、任務に関係のない会話もしないことから、実は原田と唯斗は個人的なことをあまり互いに語っていない。

それを原田は気にしていなかったはずだし、それでもうまくやれていたのだが、今の原田は意図的に唯斗への注意をじっと向けているように感じられた。

もしかすると、ロンドンで原田たちが気絶している間に単独先行したことを咎めているのかもしれない。管制室からの廊下を歩きながら、唯斗は隣を歩く原田をそっと見上げた。
ばちりと目が合い、どうやらずっとこちらを見ていたのだと気づく。それに内心怯えつつ、それを表にみせずに口を開いた。


「あー…その、ロンドンで俺が勝手に行動して戦ったこと、怒ってるか?」

「いえ。あれはあれで正しかったと思うっす。敵を捕捉する必要があったし、戦闘データを見るに、ただの人間であるマスターにあれほど全力で応戦してきたのは予想外だったはずなんで」

「そ、そうか…」


そこで会話が途切れる。てっきり、では何に怒っているのかをそのまま原田が話してくれると思っていた。しかし原田は沈黙を維持する。
これは自分で聞けということか、考えろということか。後者だろう。
だが、いま述べたことでないのなら余計に分からない。


「…悪い、俺は察するとか得意じゃねぇから。言いたいことあるならはっきり言ってくれ」


そこで唯斗は早々に降参して、直接言葉にするよう言った。考えても分からないことを考えても無駄だし、この問答にも意味があるとは思えない。

それに対して、原田はすっと目を細める。ただでさえ怜悧な目つきがさらに鋭くなったように感じた。


「……あんた、死んでもいいとか思ってるっすよね」

「ッ、」


唯斗は息を飲む。まさかドンピシャで言い当てられるとは。

そう、確かに唯斗は自身の生死に頓着していない。当然、痛いのは嫌だし自ら死のうともしていないのだが、立香の身代わりに死ぬこと自体はさしたる問題ではないと思っている。

いてもいなくても変わらないのだ。もし誰かが犠牲になるときが来たなら、それは唯斗が一番だ。

ただ、さすがにそれを自身のサーヴァントに言うわけにはいかない。モチベーションというところでもそうだし、いざというときに変に守られてしまうのも困る。関係が硬直することも面倒だ。

とはいえ、嘘をついてごまかせるほど、唯斗のコミュニケーション能力は高くないし原田も甘くない。唯斗は嘘をごくわずかに混ぜる形で応じることにした。


「正解っちゃ正解だけど、自暴自棄になってるわけじゃねぇし、あくまで目標は特異点の修復だ。俺にしても立香にしても、死を覚悟する瞬間は必ずある。怖くない、ってだけだ。進んで死にに行くつもりはない」

「…ま、そういうことにしときます」


唯斗の言葉に対して、原田はそう言って肩をすくめ、空気を柔らかくした。張りつめていた空気がほどけ、自然と小さく息をついてしまう。無意識に緊張していたらしい。
どうやらまだ疑いは晴らせていないようだし、それは正しい。

改めて、底知れない英霊だと思った。



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