Fraternité−11


改めて謝ると、唯斗はデコピンをしてきた。先ほどギャラハッドにやったものと比べてだいぶ痛い。大きな音がして、ギャラハッドすら痛そうな顔をしたくらいだ。バーソロミューは「うっ…」と呻いて額を抑えた。


「これでチャラな」

「……君と、もう少し早く会えていたら変わっていただろうか」


不正に手を染めずとも、ただみんなと頑張る未来はバーソロミューにあったのだろうか。唯斗はそれを聞いて呆れたようにする。


「知るか。そんなたられば意味ねぇだろ。それよりも、これからの方が大事だ」

「これから…?」

「誰かに愛されたいなら、まずは自分が誰かを愛せるようになるんだな。社員たちを大事に思えたように。さっき言ったとおりだ。愛せる人間は愛される、それが愛の国フランスの教えだ、胸に刻めよイングランド人」

「……では、まずは君を愛してもいいだろうか」


つるりと口から出た言葉に、バーソロミュー自身驚いてしまった。目を丸くしている自覚があるし、思わず口を押えてしまった。正面にいる唯斗もポカンとしており、次いで、少し顔を赤らめた。


「…真正面から言うか、そんなん、いきなり」


フランスの血が流れるわりに、そういう直球な表現への耐性はないらしい。
その様子が可愛らしくて、バーソロミューは今のが漏れ出た本心だと自覚する。

まずは誰かを愛せるようになれと言うなら、最初の相手は唯斗がいいと思った。
その言葉を理解して、ギャラハッドとサンソンは早速唯斗をバーソロミューから引きはがして間に割って入る。


「唯斗さん、やはりこいつは強制送還しましょう」

「同意するよギャラハッド、これ以上敵はいらない」

「それではサンソンさんがミスター・ロバーツと帰国してください。僕が唯斗さんと二人で日本に残るんで」

「いやいや、君もついでにロンドンの御父上と一緒に暮らすといい」


唐突にバチバチと火花を散らし始めたサンソンとギャラハッドを横目に、バーソロミューはその後ろにいる唯斗に華麗なるウィンクを向けた。


「まずはデートからどうだろう、唯斗。手始めにこの街を案内してくれないか」

「「黙ってろブリテン野郎」」

「おい、口が悪いぞお前ら」


鶴の一声というやつで、唯斗が言った瞬間に二人は沈静化した。二人の間を縫って唯斗はバーソロミューの前に戻ってくる。


「デートかどうかは別として、案内はしてやる」

「ちょっと待ってください唯斗、僕だってまだちゃんとは案内していただいていませんが」

「そうですよ、僕たちを差し置いてデートをその男とするのは遺憾です」

「あー分かった分かった、また次の月曜まとめて相手してやっから、全員出てけ、俺は寝る」

「…それで妥協しましょう」

「おやすみなさい唯斗さん」


また騒ぎになりかけたところで、唯斗は強引にサンソンとギャラハッドを下がらせた。二人は抵抗せず、それで妥協したのか部屋を出て行った。途端に部屋は静かになる。

唯斗は欠伸をひとつ漏らし、ギャラハッドのパーカーの余った袖で口元を隠した。これが萌え袖というやつか、とバーソロミューは奥ゆかしい文化に納得する。

そして唯斗は、二人の足音が遠ざかったのを確認してから、布団に転がる。


「…あいつらも、自分と似たような感情を感じてたであろうお前に、それなりに共感したんだろ。一応はお前が引き続きこの家にいることを認めてる」

「うん、分かっているさ。彼らもとても優しいね」

「そうだな。まぁ、同情ではないからな、別にそこまでお前に優しくすることはないだろうけど、もともとあいつらも互いにサバサバしてっから気にすんな」

「分かった。でも君にはベタベタしていいんだろう?」


一気に下になった唯斗の頭を、バーソロミューはそっと撫でる。唯斗はその感覚に心地よさそうにしながらも、それに形ばかり抗うように低く言った。


「俺が離れろっつったら1秒以内に離れろよ…」

「離れろと言われないよう甘やかすことにしよう」

「誰が…甘えるかっつの……」


そう言いながらその目は眠そうに落ち始めており、あれだけ怒ったり呆れたりしたくせに、バーソロミューに撫でられて心を許している。
この許される感覚が、きっと彼らの心も溶かしたのだろう。バーソロミューは暖かくなる心を自覚しながら、唯斗が眠りに落ちるまでその髪を梳くように撫で続けた。



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