Fraternité−10


親はバーソロミューをはじめ子供たちを道具としてしか見ておらず、兄弟たちが華々しく功績を上げる中で、バーソロミューもそれに追随しなければならなかった。そうしなければ、家族は誰も認めてくれない。誰も、バーソロミューの存在を評価してくれない。その恐怖心から、バーソロミューはひたすら成績にこだわった。


「親兄弟が、金と数字にしか興味がないことは理解していた。そんな家族でも、私にとっては大切な家族で、だからこそ、数字が出せずこちらを見向きもしなくなることを恐れた。怖かったんだ、私は、家族に見放されるのが」


女遊びが与える悪影響をリスクと捉え、バーソロミューはその外見を褒められるものの、意外と浮ついた噂を流さなかった。だが、信用できる相手とは爛れた関係が続いた。
それはすべて、ただの承認欲求だ。ただ、誰かに満たされたかったのだ。


「…その結果がこのざまだ。不正が露呈し、数字が出せずに見放されるどころか、私は家族から縁を切られてしまった。恋人、のような女性たちも離れていった。もはや私にロバーツ家の嫡子というブランドはなく、それがない私は誰にも価値のない存在に成り下がった」


家族どころか、友人も恋人もすべてがバーソロミューから離れていった。いや、もしかしたらそんなものは最初からまやかしだったのかもしれない。すべてバーソロミューの一方的な思いであり、その関係性など初めから一方通行だったのかもしれなかった。

誰にも認められないどころか、興味・関心すらもされない路傍の石となった今、残されたのはズタズタになった自尊心と、ただ誰かの瞳に映りたいという承認欲求だけだった。


「……君たちには、随分と、失礼なことばかり言ったね。本当にすまなかった。私のつまらない自尊心の成れの果てさ。私は、そうやってしか、自分を保てなかったんだ…誰かを見下さなければ、何も成せなかった私は、まっすぐ立つことすら、できなかったんだ…!」


いつの間にか俯いて、バーソロミューはボロボロと目から零れたものがシャツを濡らしていくのを見つめた。言葉にするたびに、心にそれが突き刺さっていく。事実として、自分がもはや誰にも愛され得ない存在になったのだと突きつけられて、見ないふりをしていたその現実がバーソロミューの心臓を絞り上げるような感覚だった。

そんなバーソロミューを見て、サンソンもギャラハッドも、怒りを鎮めていた。同情とまではいかないが、厳しい雰囲気は纏っていなかった。この二人も、存外心優しい人物のようだ。

すると、黙っていた唯斗がゆっくりと腰を下ろし、バーソロミューの濡れた瞳を覗き込んだ。目が合うと、唯斗は袖から僅かに出た白い指先で、浅黒いバーソロミューの目元の肌をなぞって涙を掬った。その感覚に涙が引っ込む。


「…今思えば俺も、フランス語にしても英語にしても、他のいろんな勉強にしても、父親や伯母に認めてほしかったんだと思う。それは叶わなかったけど、でも、その努力は俺を助けてくれた」

「…、君ほどつらい目には遭っていないよ」


唯斗はひどい目に遭いながらも、ひたむきに努力して今に至る。バーソロミューとは違う。しかし唯斗は首を横に振った。


「比べるな……それに、お前が人を大事にすることで数字出そうとしたこと、社員は評価してた。社員から、お前は愛される社長だった。だからトリスタンはアーサーにこの話を持ち掛けたんだ。だから、アーサーも俺に託したんだ」

「…社員の声のおかげだと」

「あぁ。努力は結果を伴うとは限らない。でも、自分を助けるのは自分がしてきた努力だ。だから、努力は必ず報われるって言うんだろ。お前はきちんと社員と向き合った。人に敬意を払える人は人に尊敬されるし、人を愛せる人は人に愛されるもんだ。人間は生まれながらに自由で、平等に愛される権利がある。お前だってそうだ」


確かに、社員たちと過ごす会社での時間は楽しかった。人生で一番、充実していた。自分を慕ってくれる社員たちのために、この会社をグループ内で最も稼げる会社にしたかった。
それを実現できず、勘当されたわけだが。バーソロミューは自嘲気味に笑う。


「…家族には愛されなかったのにかい?」

「社員に愛されたから、お前をトリスタンとアーサーが助けたんだ。そして話を聞いて、俺は、お前が悪いヤツだとは思わなかったから迎え入れたし、失礼なこと言われても怒らなかった。まぁ、サンソンとギャラハッドにはフラットな目で評価して欲しかったから何も話してなかったとはいえ、二人にまで礼を失すること言いやがったからさっき怒った」

「…それは本当にすまなかった。君にも、大変な侮辱だった。申し訳ない」



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