触れる肩と並木道−2


そこで唯斗は、ギャラハッドに正面から向き直ると、その肩に目元を埋めてぐりぐりと顔を押し付けた。ギャラハッドのコートの裾も指先で掴み、抱き着きこそしないが距離をぐっと近づける。


「っ、唯斗さん、」

「…ギャラハッド、だめか……?」

「ぐ…っ、仕方ないですね、小さいやつだけですよ」

「ん、了解」


すっと唯斗は体を離すとアイスを速やかに籠に入れる。変わり身の速さにギャラハッドはため息をついた。


「まったく…誰の入れ知恵ですか」

「玉藻さん。サンソンが倒せないって話をしたら教えてくれた。ここんとこアイスずっと買えてるのは玉藻さんの教えのおかげだ」


サンソンといいギャラハッドといい、よくもこんな雑なおねだりで了承するものである。唯斗がこんなことをしたところで普通は誰もなんとも思わないだろうに、彼らが唯斗に向ける思いとはそういうものなのだ。
ギャラハッドはぶつぶつと言いつつも食い下がらず、そのままレジを通した。そしてやはり当然のようにギャラハッドは重い袋を持ってくれて、彼氏力なるものがあるとすればギャラハッドのそれは突き抜けて高いだろうと思った。


そうして帰路について駅を離れると、ふとギャラハッドは思い立ったように尋ねてきた。


「なんで今日は駅前だったんですか?今日買ったものなら、いつものスーパーに車出した方が楽だったんじゃないですか」

「まぁな。でも、晴れてたし歩きたかった」

「なるほど…」


そういうこともあるか、という顔をしたギャラハッドに、唯斗は苦笑する。


「日本に戻ったのは高校生のとき。車買ったのは大学3年のときだったから、それまでは歩いて行ける駅前に出てたんだ。だから、5年間くらいは買い物のとき必ずこの道を歩いてた」

「思い出の道という感じですか」

「あぁ…一人で歩いて、買ったものも一人分で、帰ってからも、飯食うときも一人で。だから…ずっと、この道を誰かと歩きたかったんだ。この道を、手を引いて歩いてる親子とか、並んで歩いてる夫婦とか見て、それがひどく羨ましかった」

「…っ、唯斗さん…」

「ごめんな、我儘に付き合わせて」


今度は右側になった車道側を歩くギャラハッドを見上げて言うと、彼は首を横に振って、真摯な顔になる。


「嬉しいです。隣に立たせてくれて、日本に連れてきてくれて、本当に嬉しかった。だから、僕がいつでも一緒に歩きます。いつでも、いつまでも」

「…ふは、そっか。うん…ありがとな」


しっかりと言葉にしてくれるのが唯斗も嬉しくて、ぴたりと肩をつけて少しだけ歩き続ける。たまたま触れ合ったのではなく、意図的にくっつけると、ギャラハッドから心底悔しそうな声で「今とてもあなたのことを抱き締めたいのに…」と聞こえてきた。
手がふさがっている上に日本の往来ではなかなかそうはいかない。


「帰ったらな。それにしても、サンソンもバーソロミューもだけど、こんな我儘に付き合ってくれるんだからお前ら本当に優しいよな」

「…僕だけ呼んでくれればいいですよ、歩いて買い物に行くときは」

「あいつらもまったく同じこと言ってたぞ」


揃いも揃って同じことを言ったため、おかしくなって笑うとギャラハッドは少しだけぶすっとしてみせた。そのため、唯斗はギャラハッドの顔を覗き込んだ。


「たとえ今日サンソンたちがいても、ギャラハッドに声かけてた。だってお前と歩きたかったんだ」

「…本当に、ずるいですよ、あなたは」


呆れたように、あるいは諦めたように、ギャラハッドはため息をつきながら笑った。
この道でこうやって笑い合いながら歩く日が来るとは思っていなかったものが、今やこうして一緒に歩いてくれる者がいて、帰りを待ってくれる者がいる。

たったそれだけで、いつの季節も寒々しく感じていたこの道が、暖かく感じられた。



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