Dom/Subシリーズ−獅子心王の狂気10


ぼんやりしていると、リチャードは少し体を離し、指をパチンと鳴らす。それは、継続するタイプのコマンドを解除するための合図のようなもので、その音によって少し思考が戻ってくる。
とはいえ、壁のように襲い掛かった快感の波によってもともと思考はおぼつかない状態だったが。


「大丈夫か?」

「…ん、へーき」


リチャードの魔力が体内に渦巻く。量からして、やはり3、4回は中に出されたことだろう。
ずるりと出ていく感覚にも声が漏れる。リチャードは大きく息を吐いて、完全に自身を唯斗の中から引き抜いたあと、唯斗の右隣に横になった。

そのまま腕枕になるように抱き締められ、唯斗もリチャードの首筋に顔を埋める。
後頭部を撫でられ、甘い声が囁く。


「よく頑張ったな。上手に思考飛ばせてえらいぞ」


ケアが始まり、褒められたことで一気に満たされる。先ほどの思考のぼやけ方とは違う、酩酊したような感覚は相手にすべてを委ねてしまうSubスペースだ。


「可愛いな、唯斗。ずっと俺がここで守るからな」


静寂に落ちるリチャードの声。窓の外に広がる青空は、やはり無機質で実体がない。まるで世界に二人だけのようで、実際、この空間には二人しかいない。

「それでいい」と思ってしまったその瞬間、唯斗の中で、何かがかちりと正しい場所にはまるような、そんな感覚になった。

同時に、世界が閉じる(・・・・・・)。この位相が現実と連続していた唯一の、わずかな道が絶たれた。
それは唯斗が現実世界のカルデアに戻ろうとする意志による、意識の連続体のようなものだ。それは現状、カルデアからここに干渉する唯一の道であり方法だった。

リチャードもそれに気づいたようで、さらに強く唯斗を抱き締めた。


「唯斗!嬉しいな、受け入れてくれたのか。君がここで俺と二人きりになることを受け入れて初めて、世界が閉じるようになっていた。君の意志に反して君を閉じ込めるより、ずっと強固な隔絶になるからな」


今になってようやく、唯斗もこの空間の魔術的な特性に気づいた。これは、二人の意志が理論壁となる空間だったのだ。

リチャードの腕の中、少し体を離して間近でリチャードの顔を見上げる。その瞳には、愛しいという人としての愛情と、逃がさないという獣の欲望が同時に存在しているように見えた。


「…ずっと、俺も、こうなりたかったんだな。自分の希望とか、願いとか、そんなこと考えるのは無意味で、そんなんしてこなかったから、分からなかった」

「俺は分かっていたぞ。でなきゃさすがに、唯斗の意志を無視して閉じ込めようとは思わない。君をあらゆる危険と理不尽から守る手段として、君がこれを受け入れてくれるという自信があった」


どうやらリチャードは、唯斗が理性と決意という名の、未来と幸福への諦観の下に押し込めていた不安と絶望を理解してくれていた。そんなものから逃れたいという、唯斗の自分でも気づいていなかった深層心理にも。


「もう、いいや。俺は、ここでいい。ここがいい」

「あぁ、祝杯でも挙げたい気分だな!唯斗が俺のものになってくれた。ようやくだ!」


唯斗がすべてを受け入れた瞬間、リチャードは全面に喜色を浮かべて元気よくそう言うと、唯斗を抱きしめなおした。
リチャードのDom性の本質は「占領」なのだろう。唯斗の心の領土という境界を越え、それを支配する。

その支配が嬉しくて、安心して、唯斗からもリチャードに抱き着く。逞しい腕に抱かれ、何者も見つけられないこの隔絶された空間に、リチャードの愛と狂気を感じる。

それがひどく心地良い。


そうして唯斗は、その日を境に、世界から姿を消した。



prev next
back
表紙に戻る