長編番外編−安心感


邪竜百年戦争オルレアンII
眠れない主とジークフリート


リヨンからなんとか脱出して辿り着いた廃墟の砦の中、ジークフリートの呪いを解くために聖人のサーヴァントを探すべく、二手に分かれてフランスを移動する前に、軽く休んでいくことになった。
数時間ほど眠ってから、二手に分かれて東と西へ向かうことになっている。

立香は「おやすみ3秒」で知られ、ボロボロの床に敷いたマットの上で一瞬で眠りについた。その隣のマットではマシュも疲れからかすぐに寝息を立て始めた。デミ・サーヴァントであるマシュも、人間の部分がある以上はある程度の睡眠を必要とする。

唯斗も一応、カルデアから支給されたマットで眠りに着こうとしたが、眠ることは難しそうだ。
寒冷な中世、まだ初夏らしいフランスは肌寒く、広い砦の薄暗いエントランスホールで焚火を焚いてはいるものの、寒さから毛布をかぶる。その寒さもあって余計に眠れなさそうだった。

しばらくは横になって目を閉じていたが、これはダメそうだ、と諦めて起き上がる。毛布を肩にかけたまま、焚火の近くに座った。焚火の周りで同じく休んでいたサーヴァントたちは、眠らない唯斗に首をかしげた。


「唯斗さん、眠らないのですか?」

「…もともと、俺、寝るの下手くそだから」

「なんだいそれ」


ジャンヌへの唯斗の答えにアマデウスはおかしそうに笑う。眠るのに上手いも下手もあるか、というのは唯斗も思うところではある。


「寝つきが悪いのかしら?」


ジャンヌの隣に座るマリーに、唯斗は頷いた。


「あぁ。ベッドに入ってから1時間は眠れない。枕とか環境が変わるともっと寝付けない。カルデアに来たばかりの頃はしばらく眠れなくて、毎日自主訓練を加えて体も魔術回路も酷使して、意識飛ばさないと眠れなかった」

「唯斗、今は疲れていないの?」

「疲れてはいる。でも、眠くなるほどギリギリまで疲れたらなんかあったとき困るから、セーブしてた。むしろカルデアでの訓練期間中の方が疲れてたくらいだ」

「その判断自体は正しいな」


会話に入ってきたのはジークフリートだ。怪我や呪いで生きているだけで不思議なのに、唯斗の右隣にわざわざ移動してくる。


「ジークフリート、あんま動くなって」

「これくらい問題ないさ。心配させてばかりですまない」


ジークフリートは隙あらば謝ってくる。唯斗の隣に腰をおろしたジークフリートは、おもむろに唯斗を抱き寄せてきた。体の右側が低めの温度に包まれるが、毛布越しであるためむしろ体温は高いのかもしれない。
ジークフリートは唯斗の体を自身にもたれさせ、肩を抱いてくる。


「っ、ちょ、なに、してんだ、」

「慣れない戦場で気が張っているんだろう。恐らく、体感以上に疲労があるはずだ。しっかり休んだ方がいい」

「だからって…」


毛布を挟んでいるとはいえ、あの北方ゲルマン民族の大英雄だ。唯斗はどうしたらいいか分からず体を固くするが、安心させるようにジークフリートはとんとん、と肩を叩く。


「あら、素敵だわ。人肌は安心感を与えるものですものね」

「文字通り気休めってとこかな?」


マリーはにっこりとするが、アマデウスは唯斗の心情も察しているのか同情したような声音ではあるが、しかし言っていることは単に彼が言いたかったことなのだろう。
少しアマデウスに腹を立てつつ、しかし唯斗は、存外この温もりが悪くないことに気付く。マリーの言う通りで、気が張っていたところにこうして抱き締められたことで、安心感を得ている。


「…まぁ、でも、悪くない」

「すまない、心地の良いものではなかったかもしれない」

「いや……なんつか、安心する」


そう言って、唯斗はジークフリートの肩に頭を乗せてみた。相手が英霊ということももちろんだが、けが人でもあり、その呪いのひどさをよく理解しているため、おっかなびっくりといった感じになった。ジークフリートはそれを見て苦笑すると、唯斗の頭を撫でた。


「…マジで眠くなってきた」


その心地よさに、次第に睡魔がやってきた。本当に眠くなってしまったことに、案外単純な自分が気恥ずかしいが、「寝てしまえ」とジークフリートが優しく言ってくれたため、目を閉じる。


「おやすみなさい、唯斗さん。私たちが見張っていますので」


ジャンヌもそう言ってくれたのがなんとか聞き取れた。
サーヴァントはマスターを守るもの。契約していない彼らであるが、改めて、守ろうとしてくれる存在というものが、本当はとても貴重なものなのだと実感した。



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