大都会のシルヴァンドル−1


ランスロット、ギャラハッド×主で現パロ

東京の都心、溜池山王駅の出口のすぐそばにあり、六本木通りに面したオシャレなパティスリーが、唯斗のバイト先の一つだった。
六本木通りは首都高速都心環状線の高架下を通る大通りで、車が常に走り続けるような場所ではあるものの、店内は防音設備によって静かで快適だ。

パリにあるパティスリーの海外1号店でもあったこの店は、土地柄外国人の客が極めて多く、スタッフも全員が英語を喋ることができる。
まだ高校1年生の唯斗がこのような高級感のある店でバイトできているのも、ひとえに唯斗がフランスで育ちフランス語と英語が使えるためだった。
近くの都立高校に通っている唯斗は、住んでいる家は郊外にあるため、正直バイトと勉強を両立させるのは大変なのだが、ここより時給の高いバイト先など高校生ではとても見つからないため、毎日疲弊しながらもバイトを続けている。

唯斗の家柄も、家の名前だけなら日本でもフランスでも上流階級であり、資産だけで生きていくこともできなくはない。それでも家庭の事情というやつで、唯斗はいつ父親に見限られてもおかしくなかった状況から、少しでも貯蓄を削らないで済ませるためにバイトをしている。
唯斗を生むと当時に日本人の母は亡くなり、フランス人と日本人のハーフだった父はそれで心を病んでフランスの家に引きこもってしまった。唯斗は母を殺した張本人のような扱いで、フランスにいたころは、世話役の伯母からひどく虐待まがいの扱いを受けていた。いや、フランスでは立派な虐待として裁判を起こせるだろう。

そんなフランスを離れて日本の家で一人暮らしを始めた唯斗は、日本の親戚に名義だけ借りて一人暮らしをしながら都立高校に通っており、いつ父親に資産の使用を差し止められてもいいように切り詰めて生きている。
父は完全に唯斗に対して無関心であるため、恐らく犯罪にならないよう未成年の間は金については自由にさせており、成人すれば唯斗による資産の利用を止めさせてくる。唯斗が引き出せる日本国内の資産額は、たとえ成人する前に全額を引き出してもこの先の大学まで考えると少しギリギリで、決して余裕はない。

そんな何もかもギリギリなところで生きていた唯斗だったが、年も明けて2年生への進学を控えたある日、転機が訪れた。


***


晴れ渡った冬晴れの土曜日、いつも通り昼下がりの混み合った店内で、ホール担当の唯斗は注文の料理を届け、お冷などのオーダーを聞き、常連客の雑談に付き合うなど忙しくしていた。何せそう広くはないこの店のホールは唯斗一人、あとはレジカウンターと厨房スタッフだけだ。
それでも回るのは、単にこの店が、先にレジで注文と会計を済ませてからテーブルに着くカフェスタイルの店だからだ。テーブルでの注文ではないためホール担当はそういらない。
レジ担当が休憩などでいない間は唯斗がレジもやる。別の日はレジを唯斗が主担当とすることもあり、思えば高校1年生にこのようなグレードの店のレジをやらせるとはなかなか大胆な店主だ。

いくらクォーターと言えど、それほど大人っぽく見えるわけでもない、何度か本当に大丈夫なのか確認を取ったこともあったが、これでいいとのことだった。
「顔が良ければすべて良しってねー!!」とけばけばしい顔で笑ったペペロンチーノというふざけた名前の店主を思い出す。本名は誰も知らない、職人としてパリからこの店の代表として送られてきた謎の人物だ。

ペペロンチーノもさすがに忙しそうにしている厨房の様子をちらりと見てから、店内の様子に視線を戻す。ピークは過ぎただろう。そろそろランチタイムも終わる。もともと、官公庁街であるこのエリアの休日はそこまで人手が多くないのだ。

そんな中、初めて見かけた客が目についた。やたら目立つ外見をしている二人は、父親と息子だろう、白人で極めて端正な顔立ちの色男だった。息子の方は前髪が少し長く片目が若干隠れているように見えるが、それでも褪せないイケメンと呼ばれる顔立ちで、二人揃ってモデルや俳優のようにすら見えた。
店内の女性客も色めくほどのルックスだ、さすがの唯斗も目に止まる。ペペロンチーノがいたら騒ぎそうだが、彼女は滅多にホールには出ない。

お冷を各テーブルに注いで回るタイミングとなったため、唯斗はピッチャーとタオルを持って店内を歩く。待っている客はいないが満席だ。
イケメンな親子のテーブルをちらりと見ると、水はまったく減っておらず、会話もないのが分かる。どう見ても不仲そうに見えた。訳ありのようだったため、あまり関わりたくないな、と内心で思いつつ、各テーブルを回り終えた。

すると、店内の女性客二人組が立ち上がって親子の席に近づいた。まさか逆ナンというやつか、と思って、食事を終えた客から空いた皿を回収しつつ様子を窺っていると、やはり女性客たちは父親の方に話しかける。


「すみません、今お時間ありますか?」

「Sorry, I cannot get Japanese.」


どうやら日本語が分からないそうだったが、さすが土曜にここまで来るだけある、女性客たちは英語に切り替えて話し始めた。
少し困ったようにしつつも、父親の方も笑顔で対応している。それを、息子らしき少年はひどく冷めた様子で見ていた。


「最近日本に来たんですか?」

「ええ。日本支社の立ち上げで来日したので、東京で暮らし始めたばかりなんです」

「すごいですね!どこから来たんですか?」

「英国です。出身はフランスですが」



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