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風呂を出たトバリと入れ替わりに真堂も入浴しにいった。トバリはといえば、風呂でシャワ浣とやらをやったので変な感じがしながら、リビングのダイニングテーブルの椅子に腰かけていた。
無性にドキドキとしてしまうトバリは、それを紛らわすために勉強しようとシャーペンを握る。
そして、一心不乱に数学の問題を解いた。それはもう、まったく時間の感覚も分からないほどに解いた。結果、まったく心の準備もしていないうちに真堂が風呂から出てきてしまっていた。
「…すげえ張り切ってんね」
「えっ、あ、先輩」
まさかそれほど集中してしまうとも思わず、つい現実逃避のようにしてしまったことで動揺してしまった。
しまったと思いつつ、変に動揺しているのを気取られるのも何だか嫌だったので、誤魔化すようにコップのジュースを飲んだ。コップは空だった。
「…あ、」
「…何してんの」
ちょっと呆れたように言うと、真堂は自分の分と合わせてジュースを注いでくれた。オレンジがコップに満ちるのをじっと見ていると、真堂はジュースのパックを冷蔵庫に戻さずテーブルに置く。
そして、トバリの肩を後ろからそっと抱いて、トバリの左の耳元に口を寄せた。
後ろから迫る真堂の顔。髪はまだしっとりと濡れていて、いつもより体温は高い。
「…ひょっとして、意識してる?」
「っ、なんで、」
なぜこうもバレるのだろうか、と咄嗟に振り向こうとしたときだった。
それを見越したように、後ろから、真堂の唇がトバリのそれと合わさった。すっと流れるようにキスされて、ちょっと湯冷めしたような生暖かい体温に触れる。
ちゅ、と音を立てて離れると、至近距離に真堂の端正な顔が広がった。
「…可愛い」
「せ、んぱい…」
「大丈夫、いろいろ考えてくれてんだろうけど、今日はいきなりすぎるし、どうせトバリも意識したのさっきだろうから、今晩は最後までしないよ」
最後までしない、ということは、後ろを使わないということだろうか。でもそれは、真堂に我慢を強いるということでもある。
前回も、「俺の鋼の理性に感謝しろよ」なんて言っていたが、つまり真堂はあのときからずっと我慢しているということだし、前回も思い返せば相当切羽詰まった顔をしていた。
そうやって我慢して欲しくはないし、何より、トバリは真堂と繋がりたかった。
「…最後まで、したくないんですか」
「……まさか。できることなら今すぐぐちゃぐちゃに抱いてやりたいけど?」
「…じゃあ、そうしてください。俺だって、先輩と、その……したい、です」
自分からこういうことを言うのはやたらに恥ずかしく、肩を抱く真堂の腕をそっと掴んで目を逸らしてしまった。真堂はしばらく無言になったあと、殺すように息を吐きだしてから、トバリを強く抱きしめてきた。真堂は椅子の後ろで中腰になっていたので、自然とその鳩尾あたりに顔が来る。
「わっ、」
「はぁぁ〜……トバリの可愛さで寿命縮まりそう」
「えっ、どういう…」
「トバリ」
トバリを遮って、真堂は体を離してこちらを見据えた。真面目な目つきにトバリも黙る。
「めちゃくちゃ優しくする。でも、トバリもつらかったり苦しかったりしたら、ちゃんと言えよ。我慢されたら俺もつらい」
「…はい、わかりました」
真堂は頷くと、椅子に座るトバリの横に回り、肩を再び抱いて口元を寄せた。トバリは目を閉じて、真堂のキスを受け入れる。
次のキスは触れるものではなく、真堂の舌が口内に入って来た。同時に、真堂の手がトバリのシャツの襟元から中に侵入し、胸元をまさぐる。
上あごを舌が撫でるとピリピリとするような快感が走り、胸の先を指で摘ままれると、腰に来るような感じが駆け抜ける。
「んんっ、ふぁ、」
思わずくぐもった声を出すと、真堂は口を離して手を引っこ抜く。
「くそ、童貞みてぇになる…トバリのこと、早く抱きたい、余裕ない。ベッド行くぞ」
本当に余裕がない真堂は、まさにぎりぎりだ。いつも年上らしい様子だが、今はトバリを求めるあまり余裕をなくし、その目には焦躁が浮かんで息も荒かった。
すべて、トバリを相手にしているからだと思うと、トバリもまたドキドキと心臓がざわつくのだった。