先輩の家、再び


トバリと真堂は、何とか混みあった電車を使って真堂の家の最寄り駅までやってきた。電車がずっと動くか分からなかったこともあって、まだ夕方くらいだがさっさと帰宅した次第である。
駅から真堂の家まで歩く道すがら、真堂は途中の激安の王道ドンキ・オーテを指さした。


「歯ブラシとか必要なもの買っておいで。服とかタオルは貸してあげるから」

「あ、そうですね」

「俺もちょっと、買いたいものあるから、終わったら外で集合ね」

「了解です」


何でも売っていることが売りの店だ。真堂も何やら買うものがあるということで、トバリは1人で必要そうなものを買っていくことにした。
泊まりの経験はないのでどうしようかと思ったが、狭い店内の生活用品の一角に、「急な泊まりに!」というポップで一通り揃えられていて感心した。これなら悩む必要もない。
トバリは歯ブラシと下着だけ手に取ると、まっすぐレジに向かった。

そういえば、夕食はどうするのだろうか。作ろうと思えば作れるが、人の家の台所を使うのは抵抗がある。勝手にそういうことをしていいのかと思う。
それなら外食か出来合いのものでもいいのではないだろうか。

そう思いながら会計を済ませて外で待っていると、10分ほどして真堂も出てきた。何やら色々買ったようだが、袋が黄色いので何かは分からなかった。


「よし、行こうか」

「あ、あの、夕飯どうします?」


そこで、トバリは出発する前に真堂に確かめることにした。真堂は「あぁ、」と合点する。


「ぶっちゃけ母さんは気にしないと思うけど、台所使うのはトバリが気にするだろ?いつもより丁寧にやろうとするだろうし、そうやって気にさせるのは忍びないから外食しよう」

「…ご明察です」

「当たり前、どれだけトバリのこと見てたと思ってんの」


ふ、と笑う真堂の何気ない言葉から滲み出る、トバリへの想い。おそらく今までもそうだったのだろうが、思いを通じ合わせた今、やっとトバリにも感じられるようになったようだ。
これくらいのことで、とも思うのだが、どうしても顔を赤くするのを押さえられなかった。



***



真堂の家に着くと、リビングでしばらく勉強することになった。結局ほとんど勉強していなかったからだ。たまに教えてもらいつつ進めるとあっという間に時間が経ち、すぐに時刻は夕飯時を示した。


そこでいったん勉強を止めると、真堂に連れられて近所のラーメン屋に行った。こういうザ・ラーメン屋というところに来たのは初めてで、テンプレな親父が厨房にいる店のカウンターで、醤油ラーメンと餃子を頼んだ。

真堂はチャーシュー*で、替え玉をして餃子とご飯も食べていた。イケメンで爽やかな真堂ではあるが、こういう男臭い店でがっつり食べるのが好きなのだという。
夏本番を控えた季節もあって、ちょっと汗をかいて食べている真堂に、なぜか胸が高鳴る。こんな何でもない一瞬ですら愛しく思えるあたり、重傷だなと他人事のように感じた。

ラーメン屋を後にすると、真堂に勧められて先に風呂に入ることになり、そこでふと気づいた。



脱衣所にてシャツを脱いだところで、現状を再認識したのである。


(…こ、恋人の家に、2人きり…誰もいない…なのに、そこで泊まり…)


そういえば、前回ここに来たときも状況は一緒だった。そして、真堂は実際、ベッドにトバリを押し倒して「こういうことされても文句言えないよ」と言っていた。そのときどういうことか分かっていなかったが、関係性が明確になった今なら分かる。


(そ、そういうことかぁーーーー!!!)


教室でも言っていたが、あのあたりから真堂はトバリのことをそういう目で見ていたのだという。つまり今晩なんて、交際が始まったのだから、それこそどうなってもおかしくない。

真堂と、そういうことをする。押し倒してきたあたり、やるなら真堂がいわゆる突っ込む側なのだろう。
トバリは胸に手を当てて考える。

まったく嫌ではない自分がいた。それどころか、ドキドキとする始末。相手を最も近いところに感じる行為なのだ、真堂とそういうことは、したいと思える。


(…調べとくか)


こんな土壇場にすることでもないかもしれないが、一応トバリはスボンに入れっぱなしだったスマホで検索をかけたのだった。


32/42
prev next
back
表紙に戻る