出会いは校舎裏
5月の中旬、そろそろ日差しが強くなりはじめ、梅雨前線が気になりだす頃。
雄英体育祭の熱気もひとしおなときのことだった。
「好きです、付き合ってください!」
「あー…えっと、ごめん、俺、今ヒーローになる勉強で頭いっぱいで余裕ないからさ、付き合うとかは考えてないんだ…ごめんね」
「で、でも!私邪魔しないし、色々支えるよ!普通科だから時間あるし、デートとかしなくていいから、だから、一緒にいられればいいから…!」
「…、どっちかが我慢して付き合うなんてよくないと思うし、俺は現状そこまでして交際するつもりないから…」
呼び出しスポットのひとつ、特別教科棟の校舎裏。そこでセミロングのかわいらしい女子から告白を受けていた。同じ学年の普通科の子で、この子のクラスは確か先週も告白があった。
ふんわりと断るのだが、この女子はかなり食い下がる。
「わ、私じゃ、嫌、かな…私可愛くないし、普通科だし…」
「君に問題があるとかじゃないんだ、ただ、」
「じゃあいいの!もし木陰君が私のこと嫌いならしょうがないけど…そうでないなら私どんな形だってかまわない!」
「いや、でもね、俺は今そういう余裕がなくて…」
「私が支えるよ!料理とかちょっとはできるから手伝えるし、あ、栄養管理の資格の勉強とかもする!」
「あの、えと、」
ぐるぐると最初に戻る。結局、「私のこと、うざいよね、私性格悪いから…ごめんなさい…!」と泣き出す始末で、ほとほとトバリの手に負えるようなものではなかった。
何とかなだめすかし、気分を上げさせたところで、ヒーローになっても縁があったら頼っていい?とこちらが頼むような形でおかえりいただいた。
自分でもファインプレーだったと思う。
だが、延々と続くループと度々やってくるメンヘラモードに悩まされ、現在トバリの機嫌は最悪だった。
トバリは校舎の側や死角、物陰など周囲のあちこちを見て誰もいないことを確認する。そして、取り急ぎこの苛立ちを発散しようと考えた。高校の敷地内で本性を出したことはなかったのだが、今日は我慢の限界だ。
トバリは足元に転がっていた空き缶を思い切り蹴とばす。
「…っらぁ!こんのくそが!!支えるとかアホか!ヒーロー科ナメてんのか!!つうかてめえのことなんざ知らねぇんだよ性格だ好き嫌いだあるかボケがぁ!!!」
言いながら蹴とばした空き缶が校舎の壁に当たって止まったため、それを何度も上から蹴りつける。ガンガンと音を立てて踏みつぶしたため、空き缶はただのアルミ片と化した。
「…ふう、」
「お疲れさま」
「お疲れさまでー…す……え、」
突然聞こえた他人の声に律儀に反応してしまったが、よくよく考えるとおかしい。ギギと音がしそうな硬さで声のした方を見ると、すぐ側の窓が開いてそこから男子生徒が笑顔でこちらを見ていた。
「いやぁ、大変そうだね、木陰トバリ君?」
あ、終わった。トバリの中ではいろいろと駆け巡ったが、よく見ると見覚えのある人だと気付く。お互い面識はないが、有名人なのだ。黒い髪をおしゃれに遊ばせて立たせた端正な顔立ち。
「…真堂揺、先輩…?」
「お、俺のこと知ってんだ、嬉しいな。1年生の超優秀な生徒で学校中の人気者な木陰君が俺のこと知ってるだなんて光栄だよ!」
ひとつ上の2年生のヒーロー科の生徒で、2年生のトップの実力者だ。クラスの中心人物で、個性は地面をたたき割るほどの揺れを引き起こすこと。人当たりが良く好青年としても知られているイケメンな先輩、とクラスで話題になっていた。
「…何が言いたいんですか?」
「んー?いやね?そんな人気者の後輩の意外な一面が知れて嬉しいなぁって!」
やはりがっつり聞かれていたらしい。苛立ちのあまりすっかり失念していた。校舎の教室のひとつがここに面しているのだ。その中を確認するべきだった。