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「大丈夫、安心して。ここ他には人いないから。たまたま教師に頼まれて資料取りに来てたんだよね、だから聞いてたの俺だけ」
「…安心できるかはあなた次第なんですけど」
「はは、そりゃそうだ。大丈夫大丈夫、ちょっと俺が言うこと聞いてくれたら誰にもこのことは言わないから!」
朗らかな笑顔はまさに優男しかりとしている。だが言っていることは明らかな脅迫であり、その目も言葉通りの笑みではない。
「…俺の知ってる真堂先輩は脅しなんてしないんですけど」
「君の知った真堂先輩は流言飛語だけど俺の知った木陰君は実録なんだよね」
そう言いながら真堂は手元にスマホを取り出した。音声データが記録された画面になっており、それが意味するのは先ほどのトバリの言動を録音していたということだ。
トバリが真堂の本性を語っても証拠はないが、真堂には証拠があるということを言っている。
「…あんた、マジ猫被ってんですね」
「君には言われたくないな!さ、どうする?俺のお願い聞いてくれる?」
「…とりあえず言ってみてください」
「うん。明日の放課後時間ちょうだいよ」
何かと思えばそんなことだった。金でもたかられるかと思ったが、ヒーロー科に通えるような世帯が金に困っているわけがない。
「…明日は無理です」
「じゃあ明後日」
「明後日もその先も無理です」
「…へぇ、なに、そうなんだ?」
すげなく断ると、真堂の目が光る。声も少し硬質になっている。だが、別に真堂の要求が嫌なわけではない。
「別に、あんたに時間取るのが嫌なわけじゃないです。家庭の事情で直帰しないといけないんですよ。こういう言い訳の常套句信じられないかもですけど、俺、特待生なんで。察していただけると助かります」
体が弱い母に代わって、一番下の妹を幼稚園に迎えに行かなければならないのだ。夕食の用意や洗濯などもある。
特待生の特殊な制度は学園で広く知られているため、家庭の事情が言葉通りの意味を持つことには真堂も納得したらしい。
「うん、それなら仕方ない」
「あざます。なんで、昼はどうですか?」
「…昼の時間くれるんだ。うん、いいよ。じゃあ明日の昼に俺の教室来て」
「?真堂先輩の教室でいいんですか?先輩もそれ、余所行きの顔じゃないですよね、大丈夫なんですか」
わざわざ教室に呼ぶということは用も教室で済ますのかと思い、真堂がそれでも大丈夫なのか心配になった。バレそうにならないだろうか。
「…へえ、本気でそれ心配するんだ、自分のことがバレる心配じゃなくてね。うん、まあ、100%嘘の猫は被れないか」
「…?どういう、」
「それはいいとして!ぶっちゃけ俺の本性はクラスにはバレてるからさ。君も気にせずおいでよ。昼飯持ってさ。ね?」
「真堂さんがそれでいいならいいです」
「よし!じゃあ念のため連絡先交換しとこうか!」
それが、トバリと真堂との最初のコンタクトだった。和気あいあいとはまったくしていなかったが、これはこれでトバリたちらしい出会いなのかもしれない。
「スタンプ送っとく」
「あ、はい。うわ、ぶっさ」
「君結構口悪いな?」
「どうせ先輩も笑顔で毒吐くタイプですよね。隠さなくていいですよ」
「うわぁ、可愛げねー後輩だな!」
「可愛い部分だけ見て置けばよかったものを…」
「すげーむかつくからスタンプ爆撃」
「わっ、ちょ、うっぜええ!!!」
―――そんな始まりだった。