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その後、以前も行ったラーメン屋で夕飯を済ませ、特に何もせずに眠りにつき、翌朝。
朝からすでに厳しい陽光は、これからの暑さを感じさせるものだった。
目が覚めて一番に視界に入った真堂の寝顔には、しばらく呆然とした。端正な顔は寝ていても健在だが、少し幼く見える。
前に泊まって起きたときは真堂がいなかったが、今朝は隣に真堂がいる。朝起きてすぐに愛する人の寝顔があるのは、なんだかとても幸福に思える。真堂が言っていたのはこういうことなのだろう。
そう思いながら寝顔を見ていると、自然と真堂もゆっくりと目を覚まし、ぼう、とした目でトバリを捉える。
「…おはようございます」
「……ん、おはよ」
いつもより舌ったらずな言葉で言うと、真堂は体温の高い手でトバリの頬を撫で、指先で目の下を優しく撫でる。
「ちょっと腫れてんね……よしよし、いい子いい子」
真堂は頬の手を頭に持っていき、ぽんぽんと撫でる。まだ寝ぼけているのだろう、そんな甘い口調で言われて、トバリはさすがに顔を赤くした。
昨日、数時間は真堂の腕の中で泣いたりぐずったりしていたため、今はもうかなりすっきりとしている。少し腫れぼったい感じが目元に残るが、そう気にならない。
やがてだんだんと覚醒した真堂は、一気に伸びをする。体の大きい真堂が伸びをしたために、掛布団がずれてトバリの体も外気に出る。
意識がはっきりしたらしい真堂は、「よし、」としっかりとした声で言った。
「トバリ、今日は一日何もしなくていい日ね」
「…何も?」
「そう。普段頑張ってるトバリだから、今日は全部俺に任せて。つっても、大したことできないけどさ」
「料理とかですか…?」
「朝飯くらいなら俺が自分でやるけど…昼はピザにしよう」
「…はい、ありがとうございます」
どこまでも自分のことを労わってくれる真堂は、やはり結婚したら良い家庭を築きそうだ。そしてそれは、本人いわく、トバリだからそうなれるのだという。そんな真堂が、改めて愛しい。
トバリは真堂について階下に降り、洗顔や歯磨きなどを済ませ、ダイニングで待っているよう指示された。オープンキッチンの中では、真堂はフライパンにソーセージを乗せて焼いており、お湯を沸かしてコーヒーも準備している。トースターには食パンが並んで焼かれていて、袋にまとめて入った野菜サラダが皿に開けられるのを待っている。
そうやって細々と準備している真堂を見ていると堪らない気持ちになって、トバリはキッチンに入るとフライパンを握る真堂の後ろに立ち、その肩甲骨の間に顔を生めるようにして後ろから抱き付いた。
邪魔だろうに、真堂は何も言わず、菜箸をいったん置いてトバリの頭をやはりぽんぽんと撫でてから、再び菜箸でソーセージを転がした。
そうやって真堂が用意した朝食を食べた後は、リビングで先に課題を済ます。2人ともすぐに終わったので、そこからソファーに移ってトバリが真堂の膝に頭を乗せてゴロゴロとし、やがて2人でピザを選んで宅配してもらって昼食を取った。
それから夕方までは真堂の部屋でゲームをしたりマンガを読んだりしたが、いずれもベッドに壁にもたれて座った真堂の膝の間で行った。
こうして常にくっついてるような状態での休日は日が暮れ、トバリは帰って兄弟たちに夕飯を作らなければならない時間となる。
玄関に出て靴を履くと、バイクで送ってくれる真堂がおもむろに抱き締めてくる。突然だったので少し驚くと、真堂は静かに口を開いた。
「ヤバイ、マジで一緒に暮らしたい。いちいち帰したくない」
「…それ、前は泊まってって欲しい、でしたよね」
最初にこの家を訪れたときは、泊まっていって欲しいと言われた。あのときは意味が分かっていなかったが、下心ありのセリフだったのだろう。
それが今は一緒に暮らしたいにまで進化した。
「…俺が先輩の家に暮らすのは無理だけど、先輩が俺の家で暮らすのはいいよ」
だからトバリも、あのときより少し言葉を変えた。最近2人きりだと敬語が取れることが多く鳴り、そして、トバリの家で暮らすならいいと言ってやった。今回は、きちんと意味するところを理解している。
真堂は真顔になった。
「ご挨拶に行かないとな」
「ほんとに結婚みたいですね」
2人は苦笑して、玄関の扉をくぐる。互いに分かっているだろう、互いにこの言葉が本心だと。それでも、現実的ではないから、今日はまだこれで話を終えるのだ。
それでも、こういうことを話せること自体が、2人にとって心地よいことだった。