chapter. 12−25


すとん、とカストロの言葉が腑に落ちたところで、別の声が入ってくる。


「何やってんだあんたら」

「ロビン…」


姿を現したのはロビンだ。念のため、サンソンとジークの様子を窺っていたのだろう。特に変わった様子がないため、警戒対象ではなくなったようだ。


「…そうだな。俺、自分で思ってるよりもずっと、みんなのことが大切なんだって自覚した」

「今更ですねえ。つか、それあんただけじゃねぇっしょ」

「ん?」


ロビンの言葉の意図が分からず、こちらにやってきてガシガシとラウルの頭を撫でたロビンを見上げる。カストロはそれを見て不機嫌そうにしていた。


「あんたが思っている以上に、俺たちはあんたを大切に思ってるってことですよ。いくら自惚れても足りねぇくらいな」

「おいいつまでラウルに触れているのだロビンフッド。それに、貴様より俺とポルクスの方がずっとラウルを愛している」

「に、兄様言い方…!」


どや顔で言い返したカストロに、ポルクスは慌ててロビンは呆れる。
彼らの言葉に、温かくなりつつ照れくさくはならないのは、それだけ長く一緒にいるからだろう。


「…カストロとポルクスと出会って6年、ロビンと出会って5年。絶対的な味方になってくれれば良くて、それはお前らだけで良かったはずなのに…いつの間にか、たくさんの人が助けてくれてた。でも、やっぱり一番落ち着くのは、お前たちと一緒のときだな」


孤立するであろう未来を理解していたラウルは、味方になってくれるならと双子を保護し、ロビンを招聘した。
いつしかそれは味方を超えて、兄弟や家族のような関係になっていた。いつでもそばにいて、支えてくれてきたのがこの3人だ。
ラウルの言葉を聞いて、カストロは一瞬言葉を詰まらせてから、やはりどや顔になる。


「…っ、当然だろう!……ラウルとポルクスさえいれば、俺は、何もいらない」


しかしすぐに、カストロは表情を緩めて、そう言ってラウルの頭をロビンに代わって撫でつけた。そのアメジストのような瞳は、多くの感情を包摂しながら緩やかにラウルを見つめている。


「…ええ兄様。私もです。ラウル様、あなたと兄様さえいれば、他には何もいりません」


ポルクスも珍しく、ラウルの手を取ってそう告げた。あまり彼女から触れてくることはないが、そうやって、感情を伝えようとしてくれているようだった。
二人とも、己のすべてを尽くしてでも、ラウルと共に在ろうとしてくれている。それは自己犠牲を含まない。彼らは、ラウルと共に生きていこうと覚悟してくれているのだから。

ロビンも、双子に場所を取られたことに文句を言うでもなく、ラウルの隣で壁に凭れ、その前髪の隙間から優しく垂れ目が見下ろした。


「前にも言ったが、あんたが俺の帰る場所だ。それは生きる理由、ってことでもある。ま、これからも末永くよろしくってことで」


茶目っぽく言ったロビンに、カストロがすかさず「お前は数年くらいでいい」と噛みつき、ロビンは適当にいなす。ポルクスがそれを困ったように笑って眺める。

ラウルはようやく気付く。彼らがこうして味方でいること以上のものを与えてくれたから、ラウルはここまで、この世界の人々のことを想うことができたのだ。
傍にいてくれたのがこの3人なのだ。この世界を、好きにならないわけがなかったのだろう。


「…なぁ、3人とも。この国にいて、幸せか?」


ふとそんなことを聞いてみる。言い合っていた二人はぴたりと止めて、ポルクスと揃ってこちらを見遣る。
そして、当然のように答えた。


「当然っしょ?」

「はい、幸せです。この上なく」

「ラウルが俺たちの幸福だ」


笑顔で、この国に来てよかったと言ってもらえればそれでいい。最初はそう思っていたけれど、3人はそう言って、ラウルの傍を幸福だと笑ってくれた。

国中を、ひいては世界中を敵に回すかもしれないと思いながら、それでもこの国のすべてが戦場となる未来を避けようと務めてきた。
「正義をなせ、たとえ天が落ちようとも」という意味のラテン語は、何があっても法を執行するという意味で使われたものだが、現代では不屈の精神で何があっても正しく在れという意味合いで取られる。

その結果がどうなるかは分からないし、ラテン語の文献では必ずしも良い結果だけではないのだが、少なくともラウルにとっては違う。


「…俺も、ここが好きだよ。幸せだ」


人が人として生きていける国を目指す。その正義の先にあったのは、そんなあたたかい想いだった。



FIAT JUSTITIA RUAT CAELUM



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