chapter. 4−1
モレーとの会談のあと、ラウルは予定通り下ロタリンギア公国の視察に向かうことにした。こちらは、ラウル自身が現地を見たかったため、ラウルが向かうと前触れを出している。
いつも通り転移魔法によって、レッツェの無骨な城から華かな宮殿の一室に入る。
「ようこそロヴェン宮殿へ、陛下」
「ずっとそこで待ってたのか、コンスタンティノス」
転移を完了するなり恭しく礼をしたのは、身長こそラウルと同じくらいだが体の厚みが遥かに違う逞しい男。
コンスタンティノスといい、11歳上の27歳になる。現在、このロヴェンという大都市を都とする下ロタリンギア公の地位についている。
「あなたは時間通り来るだろう。遅れたこともなければ、逆に早く来すぎることもない。ロタリンギア王なのだから、もっと泰然と遅れてきてもいいというのに」
「ま、普通に忙しいからな。分刻みの予定を組んでる以上は仕方ない」
「これは失礼を」
くつくつと喉の奥で笑い、コンスタンティノスは気を楽にする。ラウルに対してフランクに話すのも無理もない。
コンスタンティノス・ラティウム=ミクラガルズ、それが彼の正式な名だ。
コンスタンティノスは、東ラバルム帝国において最後の正当な皇帝だった人物であり、ラウルがいた世界でイスタンブールにあたる帝都ミクラガルズの陥落に際してロタリンギアにやってきた、元皇帝だ。
ロタリンギア王は西ラバルム皇帝家の正当な後継者として認められていることから、地位としては同等だったのである。もちろん、コンスタンティノス自身は、現在の公位という役職に準じて礼儀正しくしようとしたが、公式な場でなければ自由にしていいとラウルが述べたため、それに応じている。
いや、ラウルの前でくらい、東ラバルム帝国の皇帝であったという矜持を忘れなくていいという思いを、きちんと汲み取ってくれたのだろう。
コンスタンティノスは、ラウルが信を置く者たちの中で最も年長であり、まだ少年少女である双子たちや青年のロビン、モレーよりずっと大人だ。きっと、滅亡間近の帝国を守ろうと奮闘した時間がさらに彼を成熟させたということもあるだろう。
「さて陛下、此度の逢瀬はどちらへ向かいましょう?」
「…お前な」
とはいえ、意外とお茶目なところもあるコンスタンティノスは、そう笑いながら聞いてきた。基本的には堅苦しい方の人物ではあるが、こうして二人きりのときには気さくな言動もする。
「俺も身を隠してお忍び、というのは緊張感があって楽しんでいる節があるからね。君はどうかな」
「…まぁ、その……コンスタンティノスなら全部任せていっか、って気が楽になるから、お前と一緒に行動するのは…嫌いじゃない、つか、うん、結構好き、だけど……」
「……」
「………いやなんか言えよ」
素直に答えてやれば、コンスタンティノスは押し黙る。いたたまれなくなって、やけくそに睨みつけると、コンスタンティノスは苦笑した。
「ふっ、いや、すまない。あまりにラウルが可愛いものだから。もちろん、すべて私に任せていてくれ。完璧にエスコートしよう」
にっこりとしたコンスタンティノスは、その端正な顔を惜しげもなく使ってそんなことを言ってくる。これが大人の余裕かと、本来なら前世と合わせればコンスタンティノス以上に生きているはずのラウルですら思ってしまう。
とはいえ、もとよりラウルがこの世界で生きた時間の多くは、赤子としてろくに思考もままらない状況だったため、おおよそコンスタンティノスと同い年くらいの精神年齢ではないかと思っている。
人生経験、という意味では足元にも及ばないのだが。