悪性隔絶魔境新宿I−1


世界を救った翌日、やってきた魔術協会の使者は膨大なデータを前に一度ロンドンに戻ることを決め、わずか一日でカルデアの1年ぶりの客人はいなくなった。
それと同時に、魔術協会によるカルデアの立て直しも行われることになり、唯斗は協会のことに詳しいスタッフから一通り話を聞かされてからアーサーとともに食堂に来ていた。

立香とマシュは、立香の部屋の片付けに追われている。ダ・ヴィンチを含め、スタッフたちは外部との通信や報告、資料・データの整理と改ざんに取り組んでおり、引き続き大変そうにしている。
唯斗はといえば、もともと部屋はエミヤやサンソンの立ち入りによって片付いた状態が続いていたために改めて掃除する必要もなく、手持ち無沙汰にしていた。

食堂は相変わらず賑わっていて、協会の使者たちから隠れるために全員霊体化していた静けさから打って変わっていつもの喧噪に戻っている。
そう、英霊たちの半分以上がカルデアに残っていたのである。ダ・ヴィンチは軒並み退去しており、心配で仕方ないと感じていた者たちだけが残ったと言っていたが、それでも半分が残ってくれていた。

唯斗のサーヴァントに至っては全員が残っている。立香のサーヴァントで残っている者たちは、たとえば円卓の騎士のような忠義の厚い者たちや、清姫、頼光、静謐のような立香にただならぬ愛を向ける者、ロビンフッドやクー・フーリンたちのような世話焼きなどがいる。


「…なんか不思議な感じだな」

「そうかい?」


食堂でコーヒーを飲みながら騒がしい食堂を見ていると、向かいに座ったアーサーが首をかしげる。
唯斗は手元にあるスマホのロックを解除して、適当なSNSを開いてみる。もちろん、自分の発信ではなくニュースなど情報収集のためだけにインストールしていたものだ。


「こうしてると、グランドオーダー中と変わらないのに、外は元の世界に戻ってるんだもんな」

「あぁ…実感が沸かないかい?」

「正直な」


真夏だった日本は、気づくと真冬になっていたために否応なしに1年以上の時間がいつの間にか過ぎていたことを実感しているようで、大混乱しているのがよく分かった。
インターネットなどの通信インフラは、昨日まではかなり年号調整などで使えなくなっていたようだったが、今日から本格的に復旧している。「時間」がバグを起こしたことで、電車など自動化されたものほど動きを止めており、帰宅難民などで東京は混乱しているようだ。
これは日本に限ったことではなく、パリも同様だ。少しだけスマホを見てから暗くする。復旧したからといって、もともとこの高機能な板はその役目をほとんど果たせていなかった。


「否応なしに実感するだろうよ」

「ギルガメッシュ…」


そこにやってきたのはキャスター・ギルガメッシュで、タブレットを弄りながら唯斗の隣に腰掛けた。同席するとは思わず、つい見上げると、疲労を滲ませながらこちらを見下ろす。


「魔術協会が本格的にカルデアに介入するということは聞いているな」

「あぁ…さっきスタッフから。立香の功績をほぼなかったことにするって」

「その通り。一般人たるあやつを元の生活に戻すには、魔術協会に目をつけられないようにすることが肝要だ。大半の功績をすでに命を落とした者に託すことで、今を生きる者たちの責任を軽くする。道理だろう」

「マスターもある程度その役目を負うと聞いている。大丈夫なんだろうか」


アーサーが尋ねると、ギルガメッシュは肩を竦める。勝手に唯斗のマグカップを奪ってコーヒーを啜り、タブレットを起動する。


「ド素人の雑種を、現地では唯斗が、カルデアではドクター・アーキマンがサポートし、藤丸立香はサーヴァントの契約に使われただけとする方針、それそのものは致し方あるまい。むしろ、魔術協会から干されていた立場が回復するのではないか?」

「どうだろうな。降霊科も、その下位組織である召喚科も、バリバリの貴族主義の学部だ。俺の家系は貴族だったとはいえ、母は一般人だった。俺の中のグロスヴァレ家の血も雨宮家の血も4分の1しかないから、どちらにせよ居場所はないだろ」


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