悪性隔絶魔境新宿I−2
魔術協会の中心である時計塔は、12の魔術学部に1つの一般学部を加えて13の学部で構成されるカレッジであり、12の魔術学部には
君主と呼ばれる貴族が学部長についている。君主たちは貴族主義、民主主義、中立の3つの派閥に分かれており、貴族主義は従来の魔術師の在り方を良しとする保守層でもある。
アニムスフィア家も本来は貴族主義だが、オルガマリーはカルデア運営のためにはそんなことに拘ることはできないと割り切って唯斗と接していた。
「俺の処遇は、多分アーサーの処遇でもある。こればかりはなんとも言えないな。プラスに働く可能性もあるけど」
「僕の処遇?」
「そりゃそうだろう、君は天下のアーサー王なんだから」
そこに楽しげな声をかけてきたのは、マーリンだ。花びらを散らしながらアーサーの隣、ギルガメッシュの向かいに座ったマーリンに、3人のジト目が向けられる。
「貴様はいつまでカルデアにおるのだ」
「言っただろう?もう少し楽しんでいこうと思っているよ、来たばかりだしね。まぁ、その間にマスターの未来を明るくする助力くらいはしよう」
「マーリンが?」
驚く唯斗に、マーリンは様になるウィンクを飛ばす。アーサーは咳払いをして隣のマーリンを睨んだ。
「事態を引っかき回すつもりではないんだね?」
「君だけならそれもありだったろうけど、私のマスターへの思いは本物だよ。他ならぬ彼がそう言ってくれたのだから。僕の感情は僕だけに価値のあるものだとね」
マーリンが珍しく本当に嬉しそうにそう言ったものだから、アーサーはため息をついて警戒を解いた。ギルガメッシュも呆れたようにしつつ、「で、」と話を続ける。
「貴様はどうするつもりだ?まさか、魔術協会の魔術師相手に魔術で勝負でも仕掛けるのか?」
「それはそれで面白そうだけれど、ここは手堅くいくさ。君主レベルの家柄であれば、ビーストのことくらいは知っているだろう。少なくとも、降霊科の君主は知っているはず。であれば、アーサー王がビーストVIを追っていること、ゲーティアというビーストIが現れた以上必ずこの世界にビーストが現れることを踏まえれば、マスターとアーサー王のタッグは有用だと判断する。私はそうなるよう色々と資料やデータの監督をしよう」
「…フン、まぁ、それが妥当だろうな。ビーストのことを抜きにしても、現にアーサー王は退去せずカルデアに残っている。エクスカリバーは嘘をつかぬ厳然たる最強の宝具の一つ、信憑性など補強するまでもない。ならば、あのアーサー王を従えるマスターという人物の有用性はどの貴族にも垂涎ものだろう。もちろん、唯斗を切り刻んで触媒としてホルマリン漬けすることもあり得るだろうが…」
そこでギルガメッシュが言葉を止めてアーサーを見れば、アーサーはにこりと笑う。
「そんなことになれば、時計塔は私が2017年でその歴史に終わりを迎えさせよう。あぁ、その前にマーリンがギルガメッシュ王でもオジマンディアス王でも呼び出してロンドンを焼き払ってしまうかもしれないけれど」
「ロンドンだけで済むかな?オジマンディアス王の火力なら、英国はおろか対岸のパリやブリュッセルまで焼いてしまいそうだ。そうなればこの世界は剪定事象となってしまう」
「いや何やべぇ話してんだ、さすがにそんなこと…え、しない…よな…?」
淡々と英国ごと時計塔を滅ぼそうとするアーサーたちに、唯斗は口元を引き攣らせて確認するが、三人ともキョトンとした。
「実際にせずとも、そう脅すつもりだけれども?」
「僕もそれくらいはする心づもりだよ」
「そこな騎士王と違い我は無辜の民が数万人程度死んでも構わん、先行してロンドンの中心部を焼き払っておいてもよいが…いたずらに悪道を行く必要もあるまい」
完全に本気だ。唯斗は曖昧に笑って誤魔化しつつ、なんとしてでも穏便にことを済ませないと世界の金融の中心が焼け野原と化してしまうと内心で震えた。
一方で、それくらい唯斗のことを考えてくれているのだということも感じられて、こんな話題ではあるものの、心が温かくなるような感じがした。