悪性隔絶魔境新宿II−11
会場に雀蜂を伴って現れたのは、なんとアルトリアだった。
どうやらアサシンはアルトリアに擬態しているらしい。案の定、我慢できなくなったアルトリアがズカズカと向かっていき、諦めたように立香とジャンヌも続く。宴もたけなわというやつだ。
アルトリアに気づいたアサシンは「うっそぉ!?」という素っ頓狂な声を上げ、それが合図となった。
アルトリアとジャンヌはドレスから戦闘用の霊衣に変化して、雀蜂との戦闘を開始する。
「なんだ!?」
「きゃあッ!!」
集まっていた客は一斉に悲鳴を上げて会場の外へと駆け出していき、逆に会場内には雀蜂たちが乱入してきた。
アーサーが出て行くとマスターである唯斗たちがいると分かってしまうが、あの二人はもともとこの特異点にいるサーヴァントのためその可能性は低い。
そのため、アーサーと唯斗は会場のテーブルに隠れて待機した。
同時に、唯斗は迷彩魔術を強化して、見た目をさらに変化させる。ぱっと見では、完全にヨーロッパ系の人間に見えているだろう。
そうしてアルトリアたちが雀蜂の部隊を掃討すると、今度はアサシンが雀蜂に変化して応援の部隊に紛れ込む。
このあたりがちょうどいいタイミングとなるはずだ。
唯斗はアーサーとともに立香のところへと合流し、アーサーもタキシードからいつもの青と銀の霊衣に変化する。
「立香!」
「うわ誰かと思った…魔術ってすご…」
「いいからほら、そろそろだ」
誰かと思ったというのはこちらの台詞だ。立香とて立派に淑女である。
『やはり駄目です、霊基数値が一致しません!しかしその中に新宿のアサシンがいるのは確かです!』
「よし、なら今だ。唯斗、行くよ」
「あぁ」
立香はドレスとウィッグに手をかける。アーサーとアルトリアは意図的に二人の前から退いた。
「せ、え、の!」
その立香のかけ声に合わせ、唯斗は迷彩魔術をすべて解除した。髪の色も顔立ちもすべて元に戻り、立香はがばりとドレスを脱ぎ捨ててウィッグも外し、同時に霊子状態にしていた普段の礼装に戻る。
雀蜂たちはいったい何だ、という様子だったが、一人だけ驚愕の声を上げる。
「な、カルデアのマスター!?」
「あいつだ!」
『捕捉、マーキングしました!』
「くっそ!こんな頭の悪い下らん手に!!」
正体がばれたアサシンは呆気なく変装を解除して、元の逞しい美青年の姿に戻る。
飄々とした様子に変わりなく、大して動揺もしていない。
「ま、いつかこういう日が来るかもなーとは思ってたけどな。だがまァ、もう十分だ」
ニヤリと笑い、アサシンは中国拳法によくある腰を低く落とした体勢になる。
「我が宿星は天巧星!梁山泊百八傑が一人、浪士燕青!推して参る…!」
新宿のアサシン、改め燕青は自ら真名を明かして、一瞬にして間合いを詰めるとアルトリアに拳を叩き付けた。
剣で受けたアルトリアはそれでも押し巻けて、カーペットを引き裂きながら後ずさって背後のテーブルにぶつかった。食器やグラスが鋭い音を立てて床に散らばる。
燕青、中国古典文学の最古傑作の一つ「水滸伝」に出てくるキャラクターだ。
水滸伝とは、山東省で実際に起こった反乱をモデルに描かれた物語で、政府に反発する108人の英傑が山東省の梁山泊という巨大な沼地に集まって戦う武勇伝である。
登場人物が多すぎて、栞に人物名が書いてあることも多い。
その中でも燕青は美男子として知られ、主君に対して忠実ながら、何度諫めても主君に聞き入れてもらえず、そのたびに危機に陥った主君を助け出す。その戦い方にアサシン適正があったようだ。
最終的に燕青は、梁山泊の英傑として名を馳せたものの、主君が梁山泊の戦いの後に栄華を極める人生を送るべく故郷に戻ることを止めようとし、それを聞いてもらえず、行方をくらませた。そしてその主君も裏切りの末に非業の死を遂げる。