旅の終わり−20


時間神殿から帰還後のすぐ、亜種特異点である新宿においては、まさにグランドオーダーで得られた感情の総復習のような形となった。
アーサーに恋人として振る舞われる喜び、モリアーティーの残酷さへの怒り、コロラトゥーラの凄惨な正体とそれを爆弾として利用する是非を考えていたときの哀しみ、そして立香の女装などの、ちょっとした楽しい時間。そうした喜怒哀楽を発揮する場となった。

亜種特異点として後から認定された深海電脳楽土SE.RA.PHでは、守ることと守られること、そして共に戦うことを再確認する機会となった。唯斗の言うことを聞かずに体を張ったガウェインに、守るなら心まで守ってくれと頼み、そしてガウェインは事実、キアラに切り裂かれながらも唯斗の心を守るために現界を維持してくれた。
同じく、それまでで最も深い傷を負ったアーサーも、初めて唯斗が守り通した。結界による防御から、BBに助けられたあとの看護まで唯斗が行ったことで、唯斗には唯斗だからできる守り方があると再確認した。

異質な亜種特異点であった地底世界アガルタにおいては、様々な人類史の負の側面を見せつけられた。こんなものを守ってしまって良かったのかと思うほどの過ちの数々に、愛しいはずの歴史への怒りも感じた。
だがそれも大事なことだと、すでに唯斗は理解していた。それこそ、ウルクで学んだことだった。間違っているから滅びるのではない。だから、人類史の過ちだって、それが滅びる理由にはならず、そうした誤りを未来に伝えていくこともまた、グランドオーダーの目的の一つでもあったのだ。

そしてルルハワでは、いつ別れが来るか分からなくても、今愛することを諦めない覚悟を示して、アーサーとともに愛して生きていく決意を固めた。
アーサーが指輪をビーチで渡してくれたとき、嬉しさで涙を流すということを知り、これ以上深い感情など存在しないのではないか、と思うほどに、アーサーを愛しいと思う感情に揺さぶられた。

その後、東京で生じた小特異点では、打って変わって自分が生まれておらず、自分がいない方が幸せそうな家族の姿を見せられ、さらにはそれが特異点の原因になっていた。
初めて見る両親の家族としての姿を、最初は他人のようにしか思えなかった。しかし、今際の際に母は母として、ずっと生まれたときから唯斗の幸せを願ってくれていたと知った。父も本当は、唯斗との幸せな家庭を願っていたのだと知った。
自分に本当はどんな幸福があって、失われたものがどんなに尊いものだったのかを知ったからこそ、改めて唯斗は家族のために涙を流したのだ。

最後のレイシフトとなったセイレムでは、サンソンに処刑台を造らせるという暴挙に、それまで抱いたことのないような強い怒りと悔しさを感じた。何もできない悔しさと、それに端を発する怒りは、ロビンに向けられたこともあった。自分で自分の感情をコントロールできない違和感も初めてのことだったのである。
そしてサンソンが処刑されたとき、ロビンやアーサーに対して、唯斗は人生で最も強い怒りを示した。それでもなお、ロビンにひどいことを言ってしまったことやアーサーに苛烈な命令を下そうとしてしまったことが自分で許せなかった。
怒り、悔しさ、悲しみ、どれをとっても、それまでで最も強いものだっただろう。

こうして、フランスの旅に始まった唯斗の成長は、ここに一つのゴールを見たのだ。

昂ぶっていた感情も収まり、唯斗はそっとアーサーから体を離す。それでも依然としてアーサーは唯斗の腰を抱き寄せたままで、僅かに上体が離れているだけだ。
至近距離にある端正な顔立ちを見上げると、アーサーはすぐに、軽く触れるだけのキスを落とした。


「…1年間、恋人として過ごしてきて、改めて君じゃなきゃいけないと思った」

「……俺には最初からアーサーしかいなかったけどな」

「いいや、君を幸せにできるのは僕だけではないと、サバフェスで姫路城のプリンセスに教えてもらっただろう?けれど、言うなれば僕と君は、運命だったんだ」

「運命…」


アーサーが言うと、そんなキザったらしい言葉も実に様になる。とはいえ、唯斗もその言葉にはすんなりと納得した。
確かに、アーサーが唯一の選択肢ではなかったのかもしれない。だが、なんであれ二人は運命だった。

偶然、父の召喚術に巻き込まれて唯斗を助け、しばらくの唯斗にとっての生きる理由となったアーサーは、カルデアで人理焼却後に再会した。
最初は一方的にアーサーが守るばかりだったが、次第にアーサー自身が唯斗の影響を受けるようになっていき、唯斗を戦友だと言ってくれるようになり、やがて、愛を伝えてくれた。
唯斗の感情がそれを受け止めるほどに追いついたところで人理焼却は破却され、このレムナントオーダーの1年間で、二人はより対等に、そして強固な関係となった。


「奇跡的に二度も出会い、旅をして、同じ感情を抱くようになり、共に戦って守り守られる、そんな関係にまでなった。時代も立場も、世界線すらも違う僕らが。これは運命に他ならないだろう?」

「…ふは、そっか。じゃあ、この運命には抗っちゃいけないな」


これまでの旅は、どちらかと言えば運命に抗うタイプの戦いだった。だからこそそう言えば、アーサーも破顔する。


「確かにそうだね。ならばこれは、つかみ取った運命だ。僕たちそれぞれが覚悟をして、決意を固めて、自ら受け入れた運命。当然、これから待ち受けるものは分からないけれど、僕たちなら正しい方へ進めるはずだ」

「そうだな。俺たちだから…俺とアーサーなら大丈夫だと思う。そう、思えるようになった」


唯斗の言葉を聞いて、アーサーは再び唯斗を抱き締める。その首筋に顔を埋め、きつく背中を抱く腕の強さと同じくらい、アーサーの背中に深く腕を回した。
この触れ合っているところからすべての感情が伝わって欲しいと思う一方で、そんなことをしなくても互いに理解し合えるのだという確信もあった。


「この先何があろうと、僕が必ず君を守る。だからこれからも、僕の隣にいて欲しい」

「あぁ。これからもずっと、俺はアーサーの隣を歩くから。愛してるよ、アーサー」

「僕も愛している、唯斗」


これが運命だというのなら、きっとこれからも、戦うべき場面や苦しくつらい時間もあるのだろう。
しかし二人なら、唯斗とアーサーなら乗り越えられると知っている。そうした苦しい感情も大事なものだと知っている。すべてを終えた先で過去を振り返り涙を流すことの尊さも知っている。

だから大丈夫だ。苦しいことの苦しさも、つらいことのつらさも、悲しいことの悲しさも、そして愛しいものの愛しさも、すべてを大切にできる。

世界を超えて出会った二人がこの旅の終わりに得たものは、そう信じる覚悟と、それができるだけの、深い深い愛だった。


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