始まりの惨劇−1
2017年12月27日。
英霊たちの退去が終わってすぐ、晴れ渡った午後に、査問団が到着した。
思えば、2015年の人理焼却の勃発とその破却を1年半ほどかけて達成し、次はその残党狩りのために2017年の約1年間を費やした。そしてこの1年間で外の世界において行われていたカルデアの処遇の協議はようやく終わり、この日を迎えたわけだ。
カルデアの職員のほとんど、特に魔術師たちはロンドンなど新しい職場が見つかっており、実質、カルデアは解散する。
代わりに、丸ごと人員を入れ替えて新体制が発足し、そこに残るのはごく僅かな技術士のみとなる。
マシュはカルデアで生まれた存在のため、いくらか残った残務処理のあと、新体制の指示に従うことになっている。
そして立香は、いったん日本に帰国するそうだ。
一方の唯斗こそが、今回最も難しい立ち位置にあった。
新所長の名はゴルドルフ・ムジークといい、魔術師の家柄の中では名門であるものの、魔術の素養というより資産家としての名門といった方が近かった。
家柄としては、グロスヴァレ家の方が上だっただろう。
そのゴルドルフは唯斗をカルデアから追放することを要求している。
当初、唯斗はアーサーとともにマスターとして残り、アーサーの現界の理由であるビースト討伐を新体制でも行う予定だったが、ゴルドルフのスタンスからそれは難しそうだと判断。
とりあえずアーサーはダ・ヴィンチの工房で隠しつつ、ビーストの脅威をゴルドルフに説明して納得させ、唯斗をマスターとして残せるか、ダ・ヴィンチが交渉することになっている。
うまくいけば、蘇生したAチームの何人かとともにビースト捜索にあたるし、駄目だったら、アーサーとともにこっそりカルデアを出て日本に帰国する予定だ。
すでに電力炉「カルデアスの灯」は停止しているにも関わらず現界できているアーサーは、異世界のマーリンの魔術による世界を渡る力と、指輪による第二契約、そして拡張された唯斗の魔術回路によって、カルデアを出ても問題ないのである。
とりあえず唯斗にできることはもうないため、落ち着いた面持ちで閑散とした廊下を管制室に向かって歩いていると、立香が自室から出てきた。
「唯斗、いよいよだね」
「そうだな」
慣れたように二人で管制室へと歩き出す。これから、やってきた査問団を迎え入れるのだ。
「もうアーサーは工房にいるの?」
「あぁ。霊体化できない以上、ホームズみたいに隠れられないからな。物理的に隠れてる」
レムナントオーダー最中にカルデアに転がり込んできたシャーロック・ホームズは、ルーラーの霊基をもったサーヴァントであるものの、一切カルデアの記録には存在しないことにしてある。これによって、その存在を隠していざというときの保険としていた。
「うわ〜、なんか緊張してきた。ちゃんと受け答えできるかな」
「立香は沈黙ベースと『分からない』でなんとかなる、一般人だし。俺の方が面倒だけど、まぁ、俺も尋問は二度目だしな」
「…なんか、魔術師ってなんなんだろうね。悪い言い方をするつもりはないけど、人間じゃないみたいだ」
「その認識でも間違いじゃない。魔術師は人間の体をしたただの機構だ。根源に至るための研究をすることだけが生存理由の、一種の研究装置でしかない。人間味はないけど、その代わり、それはこちらにとっても有利だ。論破すれば応じるからな」
もちろんプライドは持ち合わせているが、根源に至るという至上命題を前に、あらゆることが優先順位を下にするのが魔術師でもある。そこを論点とすれば、こちらにも交渉の勝機がある。
それに、どう転んでも唯斗はアーサーとともにある。立香に危害が及ぶなら共に逃げる。その手段はすでに用意してある以上、そこまで不安は感じていなかった。