五月晴れの出会い−1


梅雨の気配がし始めた5月下旬、国立雄英高校1年生の圧気応利は、静岡県西部の大都市にある高層ビルにて、プロヒーロー・エンデヴァーの事務所までやってきていた。
この一等地のビルに入居するヒーロー事務所は、事務所と言いつつちょっとした中小企業の規模であり、オールマイトに次ぐ2番目のランキングを誇るヒーローのものらしい事務所だった。

先日の体育祭で華々しく総合優勝を勝ち取った応利は多くのプロヒーロー事務所から職場体験のスカウトをもらっており、その中で一番規模が大きかったエンデヴァー事務所を選んだ。今日はその初日である。

炎熱個性が集まる事務所だけあり、引火しないよう間取りや間口はすべて広い。大きなエントランスにて受付のインターフォンを鳴らすと、すぐに若い男性のSK(サイドキック)の1人が出てきて、応利をエンデヴァーの執務室まで案内した。


「エンデヴァーさん、職場体験の子が来てくれましたよ」

「通せ」


低い声が室内から聞こえてくる。SKに礼を言ってから室内に入ると、広い執務室の大きなデスクの前に大柄な男が立っていた。威圧感のあるこの人物こそ、ヒーローチャート総合2位のエンデヴァーである。年齢はまだ33歳、オールマイトが異常であるだけで、この年齢でここまでの規模の事務所を持っているのは非常に異例な速さだ。

その眼光は鋭く、応利を見定めるようにじっと見据える。


「初めまして、雄英高校1年生の圧気応利、ヒーロー名パスカルです。本日からよろしくお願いいたします」

「プロヒーロー・エンデヴァーだ。最初に言っておくが、俺は後進育成など興味はない。お前を職場体験に呼んだのは別の理由があってのことだ。体験学習はSKにやらせる」

「別の理由、ですか」


エンデヴァーは事件解決数で常に上位に立つ。その強さに行政が依存している部分も多分にあるため、応利としても、職場体験のためにエンデヴァーの稼働率を下げることは本意ではなかった。
そもそも職場体験はあくまでプロヒーローの現場を実際に見ることに意義がある、個性だって大きく異なるため、応利としてもエンデヴァーから直接指導を賜る、ということを期待していたわけではなかった。

だがわざわざ別の理由がある、と言われては疑問も浮かぶ。
聞き返すのは当然のことのはずだが、エンデヴァーはすでに関心をなくしたようにしていた。


「後で伝える。夕方ごろにまたここへ来い」

「…分かりました」


雑な対応に何も思わないでもなかったが、エンデヴァーの苛烈な性格は有名だ。優しく紳士的に対応してもらえることなど端から期待していない。
ただ、実物を見ると少し呆れてしまう。いい大人が、という感覚もある。

しかし職場体験に際して担任のヒーローも言っていたが、職場体験でもインターンでも、危険は必ずある。実際、2つ上の今の3年生の代では白雲という生徒がインターン中に命を落としており、職場体験の前には油断しないように口酸っぱく担任から指導があった。
優しさが助けになるとは限らない。この男がそういう考え方をしているとは思っていないが、その厳しさは命のかかる仕事であることも踏まえたものであり、納得もしていた。

いったいなぜ、エンデヴァーがここまで激しい気性であるのかは分からない。まだ30代前半という若さゆえ、ということでもなさそうだ。
何より、後進育成に興味はないと言いながら、初めて職場体験のオファーを出したことも気になった。応利を呼んだ別の理由とは何なのか。

いろいろなことが気になりながらも執務室を出る。大きな窓からは、梅雨前の最後の晴れ間から日差しが街に降り注いでいる。

それが、応利の人生ががらりと変わることになる、運命の日のことだった。


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