五月晴れの出会い−2


職場体験初日の16時頃、応利は再びエンデヴァーの執務室に足を運んだ。
今日は施設の見学や事務作業など事務所運営全般を学ばせてもらっていたが、SKがエンデヴァーより連絡を受けて、応利が呼び出された形だ。どうやら今日はこれで終了らしいが、まだ既定の時間にはなっていない。


「失礼します、圧気です」

「来たか。今日は事務所での業務は終了する。ついてこい」

「え、はい」


執務室にいたエンデヴァーはすでにヒーロースーツではなく私服に戻っていた。もともと応利は今日、外には出ないため制服で過ごしていたことから、そのまま応利はエンデヴァーについて事務所を後にする。

そうして地下駐車場までエレベーターで降りて、エンデヴァーの車で助手席に座らされる。運転席に座ったエンデヴァーでも窮屈に感じないのは、この車がバン型の大型車だからだ。

車が発進したところで、エンデヴァーが口を開く。


「お前にはこれから、俺の家へ来てもらう」

「エンデヴァーさんのご自宅ですか」

「あぁ。俺の息子に会わせたい」

「…それが、俺を職場体験に呼んだ理由ですか」


ヒーロー科とはいえ応利は高校生だ。さすがにいきなり自宅と聞くと警戒したが、どうやらエンデヴァーは自身の息子に応利を会わせたいらしい。
単に子供を見せたい、などというものではない声のトーンであり、そこに応利が呼ばれた目的があると理解する。エンデヴァーはそれを肯定した。


「その通りだ。長男の燈矢というんだが、俺よりも強い炎熱の個性を持っている。だが、体が個性に合っていない」


エンデヴァーの話を聞いて、応利はそんなことがあるのかと内心驚く。すでに車は地上に出て大通りを走り出している。この時期の日は高く、まだ昼過ぎの様相だった。

通常、個性と体の性質は一致する。発現する個性因子に合わせて体の構造が決定されるからだ。相当に相反する個性同士で結婚した夫婦でなければ、こういうことは起こらない。それも、非常に強い個性同士である場合だ。片方が弱い個性なら強い個性が打ち消す。相反する強力な個性を持つ夫婦の結婚、それが前提となる。

そこまで考えて、応利は嫌な想像が頭に浮かんだ。だが、それを出会って初日の大人に指摘するのはさすがに失礼すぎる。応利は黙って話を聞くことにした。


「燈矢はヒーローを目指している。だがあの個性と体では無理だ。いつか自分の炎に焼かれて死ぬだろう。だから、お前には燈矢の説得を頼みたい」

「…俺に、ヒーローになるのは無理だって、そうその子に言えということですか」

「そうだ。大人よりも、年齢が近くヒーローを目指す同じ立場の者であればあいつも耳を貸すだろう。特にお前は、体育祭で他を寄せ付けない圧勝で優勝した。息子もそれを見ていたようだったからな、お前のことは知っている」

「…、お言葉ですが、職場体験でやってきたばかりの高校生、それも1年生に対して、家庭の事情に巻き込むというのは、さすがに非常識過ぎませんか」

「フ、それが言えるなら十分だ」


エンデヴァーはニヤリとしたが、それは間違っても友好的なものではなかった。
応利はため息を必死で堪える。なんと身勝手なのだろう、と心の底から呆れてしまった。
出会ったばかりの高校生を家に連れていき、息子に夢を諦めるよう説得させるなど常軌を逸している。しかもそれが職場体験の目的なのだという。
息子のことも、応利のことも考えていない自分本位な考え方だ。さすがの高校側も、これを報告すれば注意するだろう。

応利は家庭の事情に首を突っ込むつもりはない。何よりも、子供の夢を壊すためにヒーローを目指しているわけではない。
どうしてそのような状況になってしまったのかはまだ分からないが、応利は、エンデヴァーの言う通りにするつもりなど毛頭なかった。


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