新たな日常−13


「他に何かしてほしいことか、俺にできることあるか?」

「…ううん、大丈夫。カロナール試してみようかなって思ってたら、台所になかったから助かった……」


大丈夫、と言いつつ応利の服の裾を掴む。まだ少し雨で濡れているが、もともとその指は少し濡れていた。


「…お母さん、いないのに、すごい重いのが来て、すっごく不安で…でも、応利君がいてくれて、よかった」

「俺も冬美が頼ってくれてよかったよ。遠慮しなくていいからな」

「うん、ほんとにありがとう」


冬美はそう言って、薬を飲んでから生理用品を一式持って部屋に戻っていった。まだ中学生になったばかりで、恐らく生理そのものも安定していないのだろう。
ただでさえ、そのような心身ともに不安定な状況であるというのに、唯一の女性の家族である冷がそばにおらず、家にいるのは男ばかりとなれば、その不安はいったいどれだけのものだっただろう。

母親が家にいない、ということの重みを感じ、応利はため息をつく。先ほど冬美は応利がいてよかったと言ってくれたが、冷がいるに越したことはないのだ。

とりあえず、応利はそのまま炎司の部屋に向かう。夜も遅いため声を抑えて襖から呼んだが、いつもと変わらずに出てきた。


「どうした、こんな時間に」

「その…単刀直入に言いますと、先ほど冬美から、生理用品を切らしてしまったから買ってきてほしいと頼まれて買ってきたんです」

「っ、そういうことまでお前に相談しているのか…」


ある程度オブラートに包んでいても文脈を正確に理解した炎司は、応利がそこまで頼られていることに驚いていた。お前が驚いてどうする、と言いたいのを我慢して言葉を続ける。


「どうしても、俺には分からないことだし、家政婦も年齢が離れています。冬美は自分でも調べられるし、学校の保健室でも相談できると思うので、とりあえずは、冬美の小遣いを増やして、自分で必要なものをきちんと必要な分購入できるようにしてあげた方が良さそうです」

「そういったものも家政婦に買ってこさせる話だったが、足りていなかったということか」

「足りる足りないっていう判断や感覚も、まだ安定しないんじゃないでしょうか。なんにせよ、足りていなかったからと、家族でもない俺に買ってきてほしいと頼むのは、すごく嫌だったと思います。いくらなんでも可哀想です」


今回ばかりは炎司も思うところがあったのか、すぐに頷いた。


「分かった、小遣いについては増やしておく。それにしても、先日の夏雄の件もそうだが、随分と懐かれたな」

「まぁ、この状況で唯一気軽に頼れる大人…俺はまだ大人というにはって感じですが、彼らにとってはそういう存在になっているようなので。結局、こうして本当の大人にちゃんとお伺いを立てなきゃいけないんですがね」

「当然だ、お前に責任を負わせるつもりはない」


その言葉に応利は内心で少し驚いた。炎司としても、応利に重荷を背負わせすぎないようにしようという配慮はあるらしい。あまりそれを形にしてもらった覚えはないのだが。


「…夏雄の誕生日が近い。金は俺が出すとして、子供らの誕生日プレゼントはお前が手配してくれ」

「え、誕生日プレゼントとかするんですか、エンデヴァーさん。この状況で」

「フン、この状況だからだ。何もしない親、と喧伝されて自治体に目を付けられるのは面倒だ」


口ではそう言っているが、本心かは分からない。もちろん、子供同士の会話を通して轟家の状況が学校や行政に伝わり面倒になるのは避けたい、というのは確かなことだろう。
だが、どうにもそれだけではないようにも思えるのだ。単に子供を愛している、というようなことでもないだろうが、それが愛なのか、責任なのか、どういう意図かは分からなかった。


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