新たな日常−12
6月下旬、燈矢たちも応利も中間試験を終えたころのことだった。
学校とインターンを終え、授業の課題とインターンのレポートに追われる夜、襖から声がかけられた。冬美の声だ。
「応利君、今ちょっといい…?」
「いいぞ、どうした?」
なんだか具合が悪そうな声だ。入室を許可すると、冬美がゆっくり襖を開いて部屋に入ってくる。
襖を閉じてから近くにやってきたその顔は青白く、どう見ても体調が優れなさそうだが、タオルをお腹あたりを覆うように持っているのを見て、もしかして、と察する。
「ごめん、こんなこと頼むの、本当に申し訳ないんだけど、その…」
珍しく言葉に詰まる冬美に、応利は少し悩んでから、自分から切り出した。
「もしかして、毎月のあれか?」
「…うん。その、ちょっと足りなくて……痛くて外出られない……」
「買ってくればいいんだな」
立ち上がりながら言うと、必死に頷く。やはり生理が来ているようだ。初めてという様子ではないため、基本的な対応自体は冷からちゃんと教わっているだろう。ただ、生理用品が足りなくなってしまったようだ。
財布とスマホを持ちながら窓の外を見ると、雨が降っているものの小雨程度だった。
「部屋戻ってな。一式買ってくるから。なんか希望あればチャットしてくれ」
「うん、ごめんね、ありがとう…」
部屋に戻してやりつつ、すぐに外へ出る。薬局へ向かっていると、スマホに通知が来た。ナプキンの種類が通販のリンク付きで指定されており、画像のおかげで見た目にすぐ分かる。
正直、応利は妹などがいるわけでもないため、女性の生理のことはよく分かっていない。もちろん仕組みや事象は理解しているが、具体的にどういうものを使っているのか、何が必要なのか、といったことは分からない。
歩きながら、「彼女に生理用品を買ってきてほしいと言われたとき」という男性向けの女性誌のWebページを見て予習しておく。実際には、薬局で女性のスタッフに恥を忍んで聞くつもりだ。
恥ずかしくない、気まずくないと言ったら嘘になる。だが、それよりも大事なことがある。
薬局に到着し、中に入って女性のスタッフを探す。すぐに見つかり、意を決して声をかけた。
「すみません、その、妹から生理用品を買ってきてほしいと頼まれたんですが…」
「分かりました、こちらへどうぞ」
スタッフはまったく動じずに答えたが、ぱっとこちらを二度見する。テレビに出ていた有名人だからだろう。咄嗟に妹と言っておいてよかった。
それでも何も言わずに、スタッフは仕事を全うしてくれた。冬美から指定のあったものについてはそれを、ほかに必要なものを教えてもらい籠に入れていく。
「あの、痛み止めとかって服用させていいんでしょうか。この春に中学に上がったところなんですが」
「きつそうだったら無理せず飲んでもらって大丈夫です。ただ、痛み止めにも種類があって、人によって効くものや副作用がきつく感じるものがあるので、とりあえず最初はカロナールあたりがいいと思いますよ」
「分かりました、ありがとうございます」
とりあえず一式を購入することができたため、急いで帰宅する。
小雨といえど靴がそれなりに濡れてしまったが些末なことだ。
冬美の部屋に向かおうとしたが、台所の明かりがついているのが見えたため、先にそちらへ向かう。やはり、冬美が台所のテーブルに手をついて俯いていた。
「冬美、とりあえず一式買ってきた。あと、薬局の人が痛み止め飲んでいいって。合う合わないあるみたいだから、これも一通り買ってきてある」
袋をテーブルに置いてやると、冬美は非常にしんどそうな顔でこちらを見上げながら「ありがとう」と小さく、しかし切実そうに礼を述べた。目元を拭っているのは、痛くて涙が出ているのか、精神的に不安定になっているからなのかは判別がつかない。