介抱という名の
●保須事件後、入院中
保須市の病院にて、ヒーロー殺しと戦った灯水たちは入院を強いられていた。特に重傷だった緑谷と飯田はベッドから起き上がるのも一苦労で、よく看護士の手を借りていた。
そして、灯水も左足と右手に怪我を負っているため、利き手が使えず歩くのも億劫だった。
一方で焦凍は最も軽傷だったこともあり、よく暇そうに出回っている。
そんな中、食事の時間がやって来た。
***
病院の入院食というやつは、今時は改善されているものの、やはり美味しいというものではない。
ベッドにサイドテーブルを引き出すと、看護士がトレーを置く。他の患者に合わせた水気の多い白米と、味噌汁、焼魚、サラダといったものである。焦凍は動けるので、自分でレストランに行くと言って断った。
「飯田さんと轟さんは、お手伝いどうしますか?」
「お手伝い…」
すると、女性の看護士は2人にそんなことを聞いてきた。確かに、両腕が使えない飯田と利き手が使えない灯水は食べるのが大変だ。思いもよらないことに、一瞬どうしようか分からなくなる。
看護士といえど女性に食べさせてもらうようなものだ。
「い、飯田君、よければ僕やるよ」
「本当か、それなら頼もう」
固まってしまった飯田を見かねた緑谷はそう申し出る。それでは灯水はどうするのか。
そこへ、見ていた焦凍がすっと出てくる。
「俺がやるので大丈夫です」
「えっ、あ、はい、分かりました!」
灯水への意思確認などはなく、勝手にやると決めた。看護士は心なしか嬉しそうな声をしてから、病室を後にした。
「む、では緑谷君、先に自分の分を食べてからお願いしたい」
「分かった」
さすがに忍びなくなったのだろう、緑谷もそこは察しており、飯田に食べさせる前に自分のものに手をつける。
一方、後で自分で食べに行く焦凍は気にせずこちらへ来て、灯水の右側に立って箸を取った。
「マジでか…」
「どうかしたか?」
「や、なんでもない…ありがと」
焦凍に食べさせてもらう、というのがなんだか不思議でおかしくなるし、照れ臭い。
「ん。じゃあいくぞ」
焦凍はまず鮭をほぐし、身の部分を箸で掴んで、手で皿を作りながら差し出した。紛うことなき「あーん」である。
口を小さく開けて応じると、中に優しく鮭が着地する。至近距離で焦凍に見つめられながら咀嚼するのは、やはり照れ臭い。
「この姿勢やりづれぇ、座るぞ」
「…えっ、」
すると焦凍はそう言って、灯水の隣にぴたりとくっつくようにして座った。そしてなぜか左手で灯水の肩を抱き、とてつもなく近い距離で続きを始めた。
恐らく、向かい合うより同じ方向を向くことで普段の自分の感覚に近付けているのだろうが、正面からやられるより恥ずかしい。
「ちょ、焦凍、」
「なんだ?」
「…なんでもない、次は味噌汁がいい」
「口移しか?」
「左手で飲めるわアホ!」
とんでもない天然モンスターである。器を持って味噌汁を飲むと、焦凍がじっと見つめてくる。食べづらいことこの上なかった。
「…かわいいな」
「いきなり何言ってんの?次サラダ」
申し訳なさなどなくなり、厚かましく頼む。焦凍は嫌な顔せず、むしろ楽しげに応じた。
我が弟ながらとんでもないな、と思っていると、ふと緑谷と目が合った。緑谷は若干顔を赤らめる。
「な、仲いいね」
「そういうとこだよ…」
爆豪に怒られるのはそういうところなのだ、と灯水は呆れてタメ息をつき、焦凍がせっせと運ぶものを食べることに専念した。