四天王


●「気付けなかったこと」
部屋王対決の後日談
ちょっとライン風っぽい



必殺技訓練も佳境に入った頃、焦凍はあまり目を通さないチャットアプリで新たなグループに招待されていることに気づいた。
夕飯を食べに食堂に向かう途中に気づいたもので、灯水が緑谷たちと話している横で焦凍はハッとした。


(上鳴、切島、尾白…あのときの写真のシェアか)


グループ名は「四天王」、一瞬何のことかと思ったが、メンバーを見て納得した。

そう、あれは部屋王対決のとき。
上鳴はノリノリだったものの、焦凍や切島はただ一緒についていくだけでさほど興味なかった。だが、あれは口田の部屋での出来事だった。


動物を操る個性だけあって、口田の部屋には可愛らしいウサギいたのだ。そのウサギに女子がメロメロになっていた一方、灯水もまた、ウサギに目を奪われていた。
芦戸たちが愛でているのを見て、灯水は口田に許可を取ってウサギと戯れに行った。

その瞬間、焦凍は一瞬で察した。

これから始まる光景を何かしらの記憶媒体に記録しなければ一生後悔するということに。


そうして焦凍がスマホを取り出しカメラを起動すると、他に3人が同様の動きをしていた。それが上鳴と切島と尾白だった。
尾白は焦凍の隣でスマホをかまえ、上鳴と切島はスマホを起動すると部屋に散開して灯水とウサギを様々な角度で捉えた。上鳴に至っては芦戸たちを邪魔だとばかりに押しやって部屋に入っていったほどだ。

その直後、灯水は顔を綻ばせてウサギを抱き上げた。おとなしいウサギはされるがままで、恐る恐る小動物に触れる灯水はことさら優しく触れていた。
これまでの人付き合いを変えて、打算などのない素の付き合い方にした灯水。笑顔は前とはまったく異なるものになったようだったが、だからこそ、ウサギを前に柔和に笑う様は誰も見たことのないものだった。

瞬時に焦凍はカメラを連射に切り替え、部屋にはシャッター音が連続して響き渡った。それに気づかず灯水はウサギをひとしきり撫でたあと、抱き上げて目を合わせ、そしてこちらを向いた。
「色合い似てない?」とこちらに言った灯水はようやくそこで異様な光景に気づき、ドン引きしていた。それすら可愛いし、そもそもウサギと自分の色合いが似ているということをワクワクしながら報告してくるなど可愛いの暴力だ。

可愛いウサギと可愛い灯水、この世界の万物への感謝の念でいっぱいになった焦凍である。



そんなウサギと灯水とのツーショットを収めていた4人のグループだ。目的はその共有にあるとみていい。
焦凍はすぐにグループに参加する。それに気づいたらしい上鳴が「おせぇよ」とポストした。

そこで焦凍たちは食堂に着き、席に座る。少し離れたところに爆豪と切島、上鳴、瀬呂などのメンバーがおり、もう少し離れたところに尾白や障子がいる。先に飯田と緑谷に食券を買いに行かせると、焦凍は真剣にスマホに向き合った。
そして、灯水がウサギと至近距離で目を合わせている写真とともに謝罪を乗せた。


轟:これで許せ

上鳴:許すしかなかった

尾白:保存

切島:さすが轟

切島:ちなみに俺のベストショット


特に目的を明らかにしているわけでもないのに、全員があの日のことだと理解している。
そして切島の写真は、ウサギ越しに灯水が微笑んでいるものだった。目を細めて愛しそうにウサギを見ている。


上鳴:あーークッソ可愛いふざけんな

尾白:もはやキレるレベル

上鳴:俺のも見て


上鳴がそう言って投稿したのは、下からウサギと灯水を捉えたものだった。床に座るウサギの耳を撫でつける灯水の柔らかな笑顔。


轟:ありがとう

切島:感謝しかねぇ

上鳴:尾白は?

尾白:ふ…驚くなよ


そんな意味深な言葉とともに、少しして尾白から投稿されたのは、なんと動画だった。灯水がウサギを撫でたり抱き上げたりする様子が、動いている。色合いが似ていると嬉しそうにこちらを見上げて報告してくるところもばっちりだった。
シャッター音がしないと思ったら、とんだファインプレーである。

焦凍はスマホを胸に当てると天井を見上げた。
視界の端に、上鳴が同じく天を仰ぎ切島がテーブルに突っ伏す様子が見えた。
さすが、わざわざ轟家に謝罪に来てまで灯水と仲直りしたいと思った連中だ。灯水とは4月から関わりが深いようだったし、USJや合宿、神野区など灯水を巡る様々な事件に関わって来たメンバーでもあるため、こうした反応も当然だろう。


「…何やってんの焦凍」


それを見ていた隣の灯水は、やはりドン引きしたように焦凍を見てくる。何をしているかは分かっていないようだが、わざわざ伝えるほどのことでもないだろう。


「生まれてきたことを幸せに感じてたところだ」

「風になりたいかよ…」


引いたようにする灯水だが、緑谷たちが戻ってくるとそばを買いに立ち上がる。焦凍が立ち上がらないでいると、呆れたように振り返る。


「何してんの。早く行こ」

「…あぁ」


焦凍は確かに四天王に感謝している。だが、ここのところ毎晩焦凍の隣で焦凍にくっつくようにして寝ている灯水の顔は、自分だけのものにしておきたいと思うのだった。


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