一家に一台便利個性


●必殺技訓練中
便利な個性と男子更衣室




雄英高校は最新設備を備えた学校だ。だから、廊下やトイレに至るまでエアコンが効いている。
もちろん更衣室もそうなのだが、そうは言っても訓練終わりは暑い。体が火照っているのだ、エアコン程度では冷めないのである。


「あっちぃ〜!」

「言うなよ瀬呂!」

「おめぇも暑苦しいよ切島」


瀬呂、切島、上鳴は口々に言いながら更衣室に入って来た。少し前に入っていた灯水はガヤガヤとうるさくなる更衣室に、いつ見ても暑苦しいなと思ってしまう。

空調の効いた更衣室は快適なのだが、訓練終わりは体温が高くなっているし、今はそもそも真夏。制服を着るのも躊躇われる。
と言いつつ、灯水も隣の焦凍もすぐに制服を着ていた。理由は簡単、2人とも体温の調節が可能だからだ。汗だけ拭いてしまえば、体温を下げて適温にする。焦凍は体の右半分だけではあるが、それでも十分そうだったし、灯水に至っては全身でそれが可能である。

体温を下げてからタオルで体を拭き、まずスラックスを履いてから、シャツを着ようとする。そこへ、切島の羨ましそうな声がかけられた。


「いいよなぁ、轟兄弟は体温調節できて」


振替って切島を見ると、コスチュームの上半身のベルトなどを外した状態でエアコンの下に立っていた。風はほとんど感じていないようだ。


「そう?まぁ、家でエアコンつけるの父さんだけかな」

「マジ羨ましいぜ…」

「ん〜、じゃあ、ほら、」


あまりに暑そうにしているので、灯水は切島の近くに寄る。上半身裸の男子2人が至近距離に近づく様子は傍目には見ていられたものではないかもしれないが、切島はエアコン以上の冷気に目を見開く。


「うお、めっちゃ涼しい!!」


灯水は何も纏っていない上半身の肌から冷気を出した。冷たい飲み物のように、冷気が水蒸気となって漂うのが見える。


「さっすが灯水だな!」


切島は勢い余って灯水に抱き付いた。体ごと冷えているためか、切島の体温がとても高く感じられた。一方の切島は、「冷てぇ〜」と快適そうだ。暑苦しいので離れて欲しいと思っていると、焦凍がおもむろに切島を引きはがした。きちんと制服を着こんだ焦凍の目は、氷よりも冷え込んでいる。


「………」

「無言!?こわッ!!分かったよ悪かったって!!」


色々事情を知っている切島は、無言で底冷えする目を向ける焦凍に平謝りする。ちょっと呆れていた。
周りの男子は、こうしたやり取りに慣れたのか動じていない。


「あー!やっちまった!」


するとそこへ、上鳴のそんな声が響いた。切島に圧をかけ続ける焦凍は放っておいて、灯水は上鳴の方を見る。
どうやら、ハンガーに雑にかけたシャツがロッカーの中で落ちていたらしい。くしゃくしゃになったシャツを広げて、上鳴は肩を落としていた。見た目を気にする上鳴らしい反応だ。


「うわ、ぐしゃぐしゃじゃんウケる」

「ウケねぇわ!」


瀬呂にからかわれて上鳴は肩パンを食らわせる。少し不憫に思った灯水は、今度はそちらへ向かった。


「広げて持って」

「え、おう」


上鳴は脈絡なく言った灯水に不思議そうにしながら、シャツをしっかり広げて持った。その皺のよったシャツを、灯水は表と裏から手を重ねるようにして挟むと、蒸気を出した。
立ち上る蒸気に何をしているのか分かった上鳴は「おお、」と声を上げた。

そのまま手を動かせば、蒸気を当てていた部分から見違えるように綺麗に布が伸びていく。
ほんの1分ほどで、目立つ皺はすべてアイロンの要領で綺麗にしてみせた。


「すげぇ!ありがとな!」

「ん、」


上鳴の嬉しそうな表情に灯水も満足する。見ていた緑谷はブツブツと「本当に汎用性の高い個性だな灯水君…」と分析し始める。
そこへ、焦凍がやってきて後ろから灯水にシャツを羽織らせた。灯水のシャツだ。そしてそのまま焦凍は後ろから抱き締めてくる。


「早く着ろ」

「おー」


灯水は特に気にせずシャツを着たが、上鳴はびくりとして離れると、ため息を一つ。
ボタンを留める灯水を焦凍が後ろから手伝ってくれているのを見ながら、上鳴と切島は分析ノートにメモをする緑谷に言った。


「めっちゃ便利な個性だけど、弟が嫉妬に塗れた目で睨んでくるのが難点って書いとけ」

「あと触れると殺されそうになるってのもな」


上鳴と切島があいついで言ったことを、律儀に緑谷は書き留めていた。


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