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夜の9時くらいには取れるという峰田の言葉を信じて、2人は風呂を後にして先に夕食を食べに行くことにした。授業は何とか受けて、寮に戻って共有スペースで過ごしたあとである。
いまだにコスチュームであるうえに、2人はモギモギと手錠でつながれている。しかも轟双子は体育祭で活躍した有名人。

そのため、食堂での奇異の目はすさまじかった。普通科やほかの科の生徒たちから二度見され、女子たちが嬉し気に、男子が面白うそうするのもむかつく。
なるべく飯田の影にでも隠れたかったが、焦凍がまったく気にしていなかったのでそれもできず、いつも通り飯田と緑谷とともにテーブルについた。

食べやすいように、焦凍はカレー、灯水はいつものそばである。焦凍は左手ではあるが器用に食べていた。さすがにそばは厳しかっただろうが。
そして2人は椅子をくっつけて座っており、肩が触れ合いそうな位置にいる。


「…冷静にさ、授業もこうすればよかったよね」

「わり、気づかなかった」

「率先してこの椅子の配置にしたよね焦凍、お前確信犯だろ」

「なんのことだか」


思えば教室でも椅子をこうしてくっつければよかっただけの話だったのだ。それなのに焦凍は食堂では自分から椅子をゼロ距離にくっつけていた。
これは計画的犯行だったと言わざるを得ない。


「っざけんな無駄に恥かいたじゃん!」

「喘ぐは恥だが俺が勃つ」

「あ、純然たる殺意」


もはや一周回って冷静になった。とんでもない焦凍の発言に灯水はもはや感情をなくしたようなものだ。
そしてそのとんでもない発言を、飯田は理解せず、緑谷も言葉の意味は分かれど焦凍が言ったことが理解できなかったのか、ついに理解を諦めてカツ丼をほおばることに専念した。


「あっ、わりぃ灯水、やっぱ食べにくいから食べさせてくれ」

「うん、今の「あっ」で取って付けたんだなって分かったし、今の今まで滑らかに食ってたよね?てかこの期に及んで厚かましいがありあまる」

「ほら、スプーンまで落とす有様だ」

「弟の頭の有様に心配だわ」

「心配してくれんのか、灯水は可愛いな。ぐちゃぐちゃにしてぇ」

「轟焦凍サイコパス説はさすがにヤバいって」


わざわざスプーンをトレーに落としてみせた焦凍に愕然とするとなおも追撃の手を緩めない。焦凍は2人の関係を言いふらすわけではなくとも隠す気もないらしい。

そこへ、トレーを持った上鳴がやって来た。爆豪たちの座っているところへ向かっているようだが、灯水たちのところを通り過ぎるときに灯水はその腕を掴んだ。


「うお、」

「救けて上鳴君、こいつヤバイ、手に負えない」

「邪魔したら殺すぞ上鳴」

「シンプルに殺意向けられた〜、俺には無理だわ!わり!」


上鳴はやたら良い笑顔で言うと素早く離脱した。逃げるのか、と恨めしく思うが、そこへ切島もやって来た。


「切島君!救けて!」

「切島といえど邪魔したら許さねぇぞ」

「うぐ、」


切島は救けを求められて応えたいと思っているようだが、焦凍の圧力に面倒くさいというのも大いにあるようだ。男らしさのために救けるべきか、いやでも飯食いてぇ、という切島の葛藤がよくわかる。


「灯水君、そばが延びてしまうぞ。轟君も食事中はきちんと食べるべきだ」


そんな灯水たちのメシアは、思ったより近くにいたようだった。飯田は真面目にそう指摘してくる。ド正論であるため、焦凍はすごすごと食べ始める。


「パパみ感じる…」

「サンキュー飯田!」


灯水は飯田への感謝に飯田に足を向けて寝られない思いだ。切島は爽やかに感謝を述べると席に向かった。なぜ礼を言われたのか分からない飯田が首を傾げたところで、思ったよりも早く、2人の間のモギモギがぽろりと力なく床に落ちたのだった。


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