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長袖に長ズボン、底が平らでないシューズという服装だけ指定された灯水は、電車に揺られて折寺にやってきた。同じ静岡県とはいえ、それなりに時間がかかる。
冬美には友達の家に泊まると適当なことを言って出て来た。焦凍には特に断りを入れる必要もないだろうと判断して何も言っていない。母との時間を邪魔したくもなかった。
そうして現在、爆豪とともに夕日に変わり始めた空の下を山へ向けて車に揺られている。運転しているのは光己だ。
明るい女性は本当に爆豪にそっくりで、爆豪が反抗するのを容赦なく殴りつけて黙らせていた。そんなところに血を感じる。
光己が話題を振って会話が続く中で、爆豪はあまり喋らず窓の外を眺めている。本当は1人が良かっただろうに、母には逆らえないものだ。
途中でコンビニに寄って、夕食用の菓子パンと行動食というお菓子の類を買って、いよいよ山に到着した。
「明日の朝6時には迎えに来るから」
「わーったよ」
「いい、くれぐれも灯水君に怪我させんじゃないわよ。あんたが怪我すんのは構わないから」
「うっせーな」
「ちゃんと聞きなさい!」
「いっ…!」
がつんと殴られ爆豪が黙る。もうこれにも慣れた。
「じゃあ勝己をよろしくね、灯水君」
「あ、はい」
「んで俺がよろしくされんだクソが…!」
「じゃあ気を付けて」
爆豪のことは黙殺すると、光己は車に乗って戻っていった。それを見送り、ついに2人きりになる。
爆豪は殴られた頭をがしがしと掻いたあと、特に灯水に声をかけるでもなく、山道に足を進めた。整備されていると言っていたように、柵があってある程度道として整えられていた。
爆豪のあとに続いていくと、ずんずん爆豪は進んでいく。灯水はといえば、雄英で慣れたとはいえ、やはり未舗装の道を歩くのに注意しているとすぐに離されそうになる。
別に沈黙が耐えがたいわけではないが、前を歩く逞しい背中を見ていると、改めてこの状況の特殊さに感慨深くなった。
「それにしても、まさか爆豪君と2人で登山することになるとはね」
「チッ、なんでてめぇもOKしてんだよ」
「いやぁ、爆豪君と一緒っていうのを差し引いても興味あったから」
「差し引いてってどういうことだオラ」
「あれ、爆豪君の性格が悪いっていうのを差し引いてって意味で言ったんだけど、伝わってなかったかな…?」
「伝わりまくりだわ殺すぞ申し訳なさそうに言うんじゃねぇクソが」
一息にツッコミをいれた爆豪は実は優しいヤツなのではないかとすら思えた。嘘でも冗談でもなく言った灯水のニュアンスに、爆豪は振り返って米神をひくつかせた。もはやA組に爆豪のキレ芸を怖がるものなどいないだろう。
「でも、友達いない扱いされたからって、それなら切島君とか上鳴君あたり呼ぶんだと思ったけど」
「天然で煽るなぁてめぇはよォ…」
爆豪は更にキレつつ足を止めることはない。ただ、会話しているからか歩調は遅くなった。そのあとをついていきながら、灯水はリュックの中に入ったポテチが早く食べたいと頭の片隅で考えた。
「…俺ァもともと、体育祭で不完全燃焼食らったのをすっきりさせるために登山しようとしてたんだ。うるせぇヤツら呼ぶよかてめぇのがまだマシだと思っただけだ」
「え、不完全燃焼だったの?優勝したのに?」
「お前ら双子のせいだクソが死ね」
確かに、1人でストレス発散のためにやるなら切島たちは呼ばない。やはり、あたりさわりのない灯水にしたようだ。ただ、ストレスの原因も灯水だったようだが。
結局、決勝戦でも焦凍は左側を使わず、爆豪を怒らせていた。灯水も戦いの中で最後はバテてしまったので、爆豪としては釈然としない終わり方を双子にさせられた形だ。