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「てめぇ、今辛気くせぇこと考えてただろ」
「えっ」
すると突然、隣の爆豪がそんなことを言ってきた。すっかり暗くなった室内、爆豪の顔は見えづらい。月明りと僅かな日光の残りが光源だ。
爆豪はどうやら、灯水が暗い思考に陥ろうとしていたことに気づいたらしい。
「隣でうじうじしてんじゃねぇカス」
「…よく分かったね」
「ネガティブくせぇツラしてんだよ。いつもヘラヘラ間抜けな笑み貼り付けてる癖によ」
「っ、貼り付けてる……?」
爆豪に指摘されたことに、思わずギクリとした。灯水には、まったく自覚がないことだったからだ。
確かに中学では、焦凍の居場所を担保するために周囲の人間関係に気を遣い、いつも笑顔を向けていた。しかし雄英ではそういうことをするような必要がある人たちではないと判断できたから、灯水としてはそのようなことをしているつもりはなかったのだ。
「…無意識、だったのかな」
「あ?」
爆豪はそこまでは分からなかったようだ。灯水が意図的にそうしているわけではないと今分かったため、尚更呆れたようにしていた。
「どうでもいいわクソが。にしても、んな八方美人な轟君は俺には随分クソ生意気なこと言ってくれんじゃねぇの」
「…そう、かな。もしかしたら、爆豪君みたいにクソ下水煮込みな性格な人相手に気を遣う必要はないって思ってるのかも」
「ここで殺して遺棄してやろうか」
言われてみれば確かに、爆豪にはあまり考えずにしゃべっているかもしれない。普段、人には絶対言わないようなことを爆豪には言っている気がする。
それに、もしここにいるのが焦凍やA組の人間であれば、きっと心配をかけるような態度は隠していたはずだ。何かあったのかと、辛気臭い表情をしてバレないようにしていただろう。
「…焦凍や、A組の人たち、家族、そういう大切な人たちには、心配かけたくない。だから、爆豪君の言う辛気臭い表情なんてしなかったと思う。でも爆豪君みたいにクソ野郎だったら、心配なんてしないわけだし、そういう態度でも気にしなくてもいいからかな」
「喧嘩売っとんのか」
そう言いつつ、爆豪はあまりキレていない。心配してやる優しさがないことは自覚があるのだろう。
絶対に自分を心配するようなことがない相手だから、もしかしたら灯水は弱いところを見せているのかもしれない。
「まぁ、自分でもよく分からないけど」
「自分のことも分かんねぇのかよ」
「…うん、わかんない。分からないんだよ、もう」
最後は吐き出すようになってしまった。そんな灯水に、爆豪は少し黙る。そして一言、「馬鹿じゃねぇの」とだけ返した。
そうしてまた沈黙が落ちたあと、おもむろに爆豪はリュックから夕食用の菓子パンを取り出して食べ始めた。見ると急に空腹が意識されてしまって、真似するようで癪ではあるが、灯水も食べてしまうことにした。
爆豪の中では会話はもう終わったものか分からないが、わざわざ続けることでもない、灯水は特に何も言わずにコッペパンを頬張る。爆豪はツナサンドを片手に立ち上がると、電気をつけるために壁に向かったが、カチ、という音だけで明るくなることはなかった。
「…あ?」
カチカチと鳴るが結果は変わらず、電球が切れているようだ。爆豪は舌打ちをすると、デスクのライトをつける。こちらはちゃんと灯って、部屋はオレンジを基調としたような淡い明かりに照らされた。
部屋が明るいだけでいくらか気分はマシになったが、食べ始めるとだんだん気温の低さが気になり始めた。
とりあえず食べることに集中していると、早くも食べ終わった爆豪はタオルと歯磨きセットを持って外に出た。蛇口があるのが見えていたから、足を洗いがてら歯を磨くのだろう。
快適さに感心しながらようやく灯水も食べ終わると、爆豪が戻って来た。タオルを乱雑にリュックに突っ込んだところで、くしゃみが一つ。