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食後、鋭児郎の部屋に戻ると、鋭児郎は勉強机に向かう。実はあと4か月ほどで高校への進学のための試験があるのだという。受験というらしいそれは、日本の多くの人々に課せられる共通の試練だそうだ。


「なぁ、シオンは英語得意?」


すると鋭児郎は机にノートや本を広げてため息をつき、椅子を回転させてこちらを向いた。シオンは鋭児郎のベッドにもたれるように床に座り、本を広げていた。声をかけられたので見上げると、少し困ったようにしていた。苦手なのだろうか。


「得意。英語できないといざというとき殺されるかもしれなかったから」

「えっ」

「…嘘じゃないけど冗談だよ」


どこの軍隊と会敵するか分からなかったので、英語によって意思疎通ができないと殺されてしまう可能性があった。それは事実だ。
固まってしまった鋭児郎に冗談だと言うと、「真顔で言うなよ〜」と脱力された。


「僕は故郷で起きたことについて聞かれても気にしない。ここに置かせてもらってる身だ、聞きたいことはなんでも聞いて」

「…置かせてもらってるなんて言い方、しなくていいぜ」


すると鋭児郎はそう言って、椅子から降りてシオンの正面に胡坐をかいてどかりと座った。真剣な目をしている。


「俺たち家族は、シオンと一緒に暮らしてぇと思ってNGOに声かけたんだ。シオンの家族の安否は分かってねぇけど、でも、俺たちはシオンのこと家族だって思ってる。だからよ、家族が傷つくようなことはしたくねぇんだ。気にするに決まってる」


無理するな、というのとはまた少し違う。シオンがどう思っているかは別として、傷つけないようにしたいと鋭児郎たちが思うこと自体は、家族として当然なんだということだ。


「でも、シオンのことは知りてぇな!だから、シオンが自分から話してくんね?俺から聞くより、まぁ、なげぇ自己紹介みてーな感じでさ」

「…わかった」


シオンが質問に答える形式ではなく、自分で話せることを選んで話してくれという意味だろう。シオンの心に最大限配慮した、だが家族として最大限知りたい、そういう鋭児郎の気持ちがまっすぐ伝わってくる。
本当に、鋭児郎は優しくてまっすぐな人なのだ。


「…僕の故郷のソグディアナ共和国は、砂漠が多くて、大きな川沿いのオアシス都市が点在する国なんだ。僕はそこの首都で生まれて、革命が起きるまで首都で暮らしてた」

「砂漠かぁ、ラクダとかいんの?」

「うん、いた。そこらへんに」

「そこらへん!?すげー!」

「日本にはいないの?」

「そこらへんにはいねぇな。あ、でも町中に鹿がそこら中にいる町ならあるぜ」

「え、すごい」


鋭児郎のイメージする通りの光景だが、鹿がたくさんいるというのもすごいと思う。自然と会話が膨らむのは、鋭児郎がシオンに対して深い興味を抱いているからだ。


「父さんと母さんと、姉さんと、弟が2人いる。安否が分かってる人は誰もいないけど。特に父さんは政権軍にいたから、新政権になってどうなったのか分からない。母さんは僕を庇って逮捕されたから、やっぱりどうなったか分からない」

「そう、か……マジか…心配だよな。母ちゃんが日本人なんだっけ?」

「そう」


淡々と話すと、鋭児郎は驚きで目を見張りつつ、少し言葉を選んで話を広げた。


「日本語の読み書きができんのも、母ちゃんのおかげだもんな。シオンのこと、生かしてくれたんだし、俺も会いてぇな!」


ニカ、という鋭児郎の笑顔は、まだ出会って数日なのに、なぜか安心できる。裏表のない純粋な好意がはっきりと伝わるからだろうか。


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