3




「髪とか目とか目立つけど、確かに顔だちは東洋っぽい部分あるもんな」

「よく言われる」

「にしても、目ぇ綺麗だな」


鋭児郎は改めて、しげしげとシオンの瞳を見つめた。至近距離で見つめられるとなんだか変な感じがする。鋭児郎の赤い瞳も綺麗だと思う。


「紫の瞳ってさ、人類の数%しかいないらしいぜ」

「そうなんだ、初めて知った」

「すっげー特別じゃん」


特別、それはとても良い意味だった。今までのシオンが特別と評されるときは、無個性だったり、見た目が性的に特別だったり、銃火器の扱いがうまい、つまり人を殺すのがうまいということだった。後に個性があると分かったものの、すべて良い意味とは言い難い特別だった。
それなのに、鋭児郎はいとも簡単にシオンを良い特別だと言ってくれた。


「そう、かな」

「おー!最初見たとき天使みてぇって思ったしな!」

「なにそれ」


同い年の男相手に言う言葉ではないだろうと思ったが、おかしくてつい笑ってしまう。うっすらとしたものだったが、それを見て鋭児郎はびっくりした顔になる。


「笑った顔初めて見た。なんつか、うん、マジで天使みてぇって改めて思ったわ」

「天使って結構いかついよ」

「え、そうなんか」


宗教画に描かれる天使は実はいかつい成りをしている。清廉なイメージでも先行しているんだろうか。


「てかさ、話変わるけど、シオンってどんな個性してんの?」

「自分でもよく分かっていないけど、人の心が読める。感情も」

「へぇ!あ、じゃあ俺の当ててみ」


鋭児郎はそう言ってじっと無言でシオンを見つめた。なんだろうと思ってシオンは個性を使って鋭児郎の方に意識を向ける。


『やっぱ天使っぽくて可愛い』


そして聞こえてきたのはそんな言葉で、感情も温かく、優しさとシオンと仲良くなりたいというようなものだった。
この個性でこのような好意的な感情や言葉を向けられたことがなかったため、心にダイレクトに伝わるそれらに思わずドキリとした。


「な、に心の中で言ってるの、だから天使じゃないって」

「お、マジで伝わってんな!すげー!」


悪びれることもなく鋭児郎は楽し気だ。だがふと、身近な人間がこんな個性を持っていたら嫌じゃないだろうかとも思う。


「嫌じゃないの、僕がこんな個性で。勝手に心読まれるとか」

「へ?なんか問題あんの?全部顔に出てるって言われっから今更だしな!それに、シオンがそういうことするって思ってねぇし」


動乱の中にある母国ではありえない考え方だ。人を疑わない。いや、社会の状態に関わらず、こうやってあっけらかんと簡単に人を信じることができるのは、それは個性だ。一長一短なのかもしれないが、だが、鋭児郎のそれは良さだと思った。


「ちなみに俺の個性は硬化な、皮膚が硬くなる!」

「かっこいいね」

「っ、さんきゅ!」


鋭児郎はガチ、と腕の皮膚を固めて自分の個性を教えてくれた。筋肉質な腕がそうやって盾のようになることは、人を守る、という感じがして格好いい。そう伝えると、一瞬鋭児郎は泣きそうな顔をしてから、笑顔で礼を言った。顔に出るというのは本当らしい。
話を変えようと、シオンから話題を振ってみた。


「鋭児郎は、海見たことある?」

「海?おう、あるぜ。シオンはねぇの?」

「僕の国は二重内陸国って言って、国境を二回越さないと海に出られない、世界で二か国しかないタイプの国なんだ」

「そんな国あんのか!おもしれーな!いいぜ、海って。解放感あって、爽やかで」

「…いつか、見てみたいって、兄弟で話してた」


どこまでも塩水が続く、生命の源、海。人と人が殺し合う場所に長らくいたが、そうした諍いなど意に介さない、あらゆる生命を生み出した母なる海を、シオンは見てみたかった。


「じゃ、今度見に行くか!今の時期は荒れてっけど、穏やかになったら行こうぜ」

「…行きたい」


あまり何かをしたい、と思ったことはないけれど。
この裏表のない鋭児郎になら、少し言ってみてもいいかもしれない、と漠然と思った。


8/40
prev next
back
表紙に戻る