ことの発端


「…神奈川連続強制性転換事件……?」

「あぁ。正直大した事件じゃねぇが、独立したてっつーことで押し付けられた」


東京都心部のビルに事務所を構えるプロヒーロー・爆心地こと爆豪は、すでにデスクで偉そうに座っている姿が似合っていた。その前に立って書類を受け取った応利は、いかめしい字面にきょとんとするが、最近テレビでも少し取り上げられている珍事件だと思い当たった。


「あの、いきなり性転換させられたけど、すぐに自然に戻るっていう変な事件か」

「それだ。そう悪質じゃねぇが、普通に犯罪だ。俺たちはとにかく事件か解決件数を増やさねぇといけねぇからな、とりあえず消化すんぞ」


この事件は、神奈川県において突然人々が身体の性別を変えられ、1か月以内に戻るという、よく分からない事件だった。被害者は最初こそ動揺するも、それなりに新鮮な感覚を楽しみ、なかにはいろいろと目覚めた者もいる。
それくらいのことだから、テレビでも動物園で赤ちゃんが生まれたくらいの、ニュース番組の最後でやるような報道しかしていない。

爆豪としてはこんな事件はそこらへんにやらしておけ、と思っているようだが、そうはいっても、現状独立したてのこの事務所こそ「そこらへん」に該当するのだ、いくら世間からの注目度は高いといえど、仕事はあまり選べない。

雄英を卒業して5年、4年に渡る相棒生活を経て、爆豪は独立。その際、元A組のメンバーを引き抜いた。応利は一番最初に声をかけられたようで、当時所属していた事務所である飯田も快諾してくれたため、相棒一番乗りとなった。
その後、切島、上鳴、瀬呂、芦戸も参加し、なんだか代わり映えしないメンバーで今に至る。

独立から半年ほど経つが、ヒーロー飽和社会においてやはり経営は難しい。A組であること、相棒時代にそれぞれ目立っていたことなどで爆豪も応利も世間に名前を知られていたので、独立時から注目されていたのはありがたい。


「つーことで頼んだぞ。俺は別の案件に行く」

「えっ、1人?」

「人手不足だからな」

「ブラック事務所…」

「うっせぇ」


爆豪はそう言ってさっさと事務所を出て行った。まだ引っ越ししたときの段ボールも残っているオフィスの中、残された応利はため息をつく。


一応、2人は恋人なのだ。
それも雄英時代から付き合っているので、かれこれ7、8年近くになる。同棲しているものの、最近は独立したバタバタでほとんど一緒に寝ていないし、自宅ではなく事務所でしか顔を合わせない。事務所で会っても仕事の話をして、すぐにそれぞれ別の仕事。
応利はもともとサバサバした性格なのでそこまで気に病むことでもないのだが、やはり、この状況が1年近く続いているは、何だかなぁ、と思ってしまうのだ。


そんなこんなで神奈川県、目撃情報や事件のあった現場の位置などから、だいたいの潜伏場所を予想した応利は、それがドンピシャだったことに自分でも驚いた。


「…ちょっとよろしいですか」

「……あら、案外早かったわね」


閑静な住宅街、夜の暗闇の中、情報に一致する外見の男が街灯に照らされてゆっくりと振り返る。スキンヘッドのいかつい男だが、その口調は女性のものっぽい。ちなみに声はめちゃくちゃ低かった。

距離にして10メートルは間を開けている。理由は、男の個性の発動条件が分からなかったからだ。任意聴取を行おうととしたところ、男は特に取り繕うでもなく微笑んだ。


「見つかったら素直に自首するつもりだったのよ。でも…あなた可愛いから、最後にあなたに個性をかけておくことにするわ」

「させるか…!」


応利はすぐに個性を使い、男周辺の気圧をぐっと下げる。しかしそれと同時に、応利の体も突然熱を持った。


「なっ、」

「あなた、女の体の方が、可愛い、わ…」


男も応利の個性によって意識を失い、地面に倒れる。相打ちだ。
突如としてきつくなるコスチューム、重くなる胸元、心もとない感覚になる下腹部。


「さいっあくだ…」


こちらもこちらで、体が女になっていた。


2/36
prev next
back
表紙に戻る