発覚
その後、無事に男は警察に引き渡したが、警察は有名人である応利の姿を見て口元が緩むのを押さえようと必死になっていた。英国近衛兵を見習えと言いたくなったが、正直、これが上鳴あたりにも起こっていたら応利は爆笑していたので、怒らないでおいた。
そしてよりにもよって、この日帰宅すると爆豪がいた。珍しく夜の2人の時間が合ったのだ。爆豪は応利の体を見て、最初こそ心配そうにしていたが、1か月もすれば元に戻るということで、そのままご無沙汰だったベッドの上へ。
いつもとまったく違う感覚に、まだ若い2人は2人して調子に乗った。
そう、応利もその自覚はあったのだ。
「妊娠したらどうすんだよ」「俺のは優秀だからな」なんて軽口を叩いていた。
だって、まさか、そんな。そういう言葉が今になって渦巻くのも、致し方ないと思うのだ。
***
「…妊娠、ですか……?」
「ええ……非常に珍しいケースですが、実例はありますので、間違いないです」
あの事件から半月ほどしてからだろうか、だるい、眠いという感覚が異常なほど強くなって、さらに放っておくと気持ち悪さや吐き気、食欲不振などにもなった。
風邪かと思い、適当に病院で薬をもらおうと受診したところ、医者に「産婦人科へどうぞ」と言われ、指示に従って再度受診したところ、そう告げられた。
診察室に落ちる呆然とした応利の声に、医師も難しい顔をしていた。
「カルテを拝見しましたが、先月、例の神奈川の事件を解決した際に体が一時的に女性になりましたね」
「はい…1週間で元に戻りましたけど…」
「恐らくそれは、外見上だけです」
あの事件で体の性別が変わったあと、1週間で胸などあらゆるところが元に戻った。
しかしそれは表面だけで、体の内側はまだだったらしい。
「子宮が、残っています」
「そこで、妊娠してると…?」
「はい。個性事故による男性妊娠は、国内でも数十件、世界ではもっと報告されており、レアではありますが、当院でも例があります」
淡々と告げる医師に、応利は愕然としながらも、そこはヒーローとして平静を保つ。
これはつまり、奇跡中の奇跡だ。たまたま転換したときの行為で妊娠し、たまたま内側の臓器が戻らず、たまたま子宮がいまだに応利の中に残っている。どこで子宮が消えてしまってもおかしくなかったはずなのだ。
そして重要なのはそこではない。これからだ。
「…今後のことを教えてください」
つとめて冷静な応利の言葉に、医者は少しほっとしながら頷く。
「この子宮もいつ消えるか分かりません。消えれば当然、妊娠した子供ごと消えます。まずは個性をかけた容疑者に話を聞いて、警察と連係する必要があります」
「なるほど…それで、あの…この子は、無事に生まれてこれるんですか…?」
まだ実感なんて欠片もない。自分の腹に命が宿っているなど、まったくわからない。
だがここに命があるというのなら、ヒーローである応利はまず、救けたいと思ってしまうのだ。ここでの「救ける」ということがどのような行為になるのかは、赤ちゃんの状況しだいだ。
「子宮が消えないのなら、通常の妊娠と同様です。出産機構以外がすべて男性体である状態での妊娠を当院は経験しておりますから、その点についても問題はありません。あとは、男性体であるがゆえのいくつかの身体上の問題をクリアすれば問題なく出産できます。障害などについても、通常の妊娠と同じです」
ようは、今回のようなケースだからこその特異な問題はなく、これまで実際に起こったことがあるケースや世間一般の流れと同じということだ。
それを聞いてひとまず安心する。あとは、子宮の維持をすれば良い。
「あと、パートナーの方ともよく話し合ってくださいね」
「あー……はい」
そうだった。応利は医者に言われたあまりにも当然のことに、咄嗟に頭を抱えたくなったのだった。