パートナー
「ベストパートナー賞、かぁ」
応利は事務所宛に届いていた郵便物を持って帰ってきた勝己に説明を受け、そんなものもあったな、と思いながら呟いた。
ベストパートナー賞は、いい夫婦の日である11月22日に合わせて発表される、その年最も理想的な夫婦に送られる、新聞社のイベント賞だ。夫婦の多様化によって、名前をパートナー賞に変えた。
今年度は応利と勝己に決まったらしい。当日はイベントがあり、授賞式とインタビューがある。
リビングのソファーで大希を抱きかかえてあやしつつ、隣にどかりと腰掛けた勝己を見遣る。
「どうすんの、当日。普通に平日じゃん」
「イベント出んのも仕事だろ」
「へー、珍し」
「どっちかっつーと、お前の復帰を印象付けるためだな、抑止力になる機会が必要だとは考えてた」
意外にもイベントへの出席に乗り気な勝己には、やはりというか、きちんと意図があった。
大希が生まれてからかなり経ち、ヒーロー事務所併設のゼロ歳児保育所に預ける算段をつけたため、応利はすでに復帰を表明している。もちろん活動は限定的だが、とりわけ人質を取るタイプの事件において都心部では応利に依存していたため、警察や市民からの復帰を求める声が徐々に大きくなっていた。
やはり、圧力を操り一瞬で相手の意識を失わせる応利の力は、人質事件で絶大な効果を発揮する。もはや応利の存在そのものが、都心部におけるこうした事件の発生を抑止していた。特に先日の事件で、マスクをつけていても、バイスタンダーでしかなくても敵を無力化した応利の姿は、敵に恐怖を与えただろう。
「もういつでも出動できるぞ」という威嚇のためにも、勝己はメディアへの露出機会を窺っていたらしい。
「ぬかりねえな」
「当たり前だろが」
とはいえ、勝己は口ではもっともなこと、それもまさに正論を言いつつ、実は私欲もふんだんに織り込ませていることもある。少し警戒しながらも、応利は勝己に新聞社への返信を任せた。
***
当日、二人は朝から大希を爆豪家に任せ、会場となる新聞社に来ていた。多くのメディアが集まるが、二人はいつも通りヒーロースーツだ。
午前中でこのイベントは終わるため、すぐ事務所に戻るからだ。しかしさすがに邪魔なのか、勝己は両腕の篭手は置いてきていた。
簡単にディレクターやスタッフに説明を受けたのち、段取りを確認し、司会のアナウンサーの挨拶を受けてから、いよいよ開始を待つ。この手の仕事はちょくちょくこなしていたため、特に問題はない。緊張もなく、カメラや記者が集まる会場の袖で待機した。
「それでは、今年度のベストパートナー賞を発表いたします。プロヒーロー、爆心地さんとパスカルさんです!どうぞ〜!!」
アナウンサーのその挨拶とともに、二人はステージに出ていく。途端にフラッシュが焚かれるが、こうしたイベントは光源がしっかりしているためあまりフラッシュは激しくない。
「それでは早速お話を伺う前に、受賞理由を説明いたします」
そうしてアナウンサーが、用意された理由を説明する。大したことではない、劇的な妊娠報告の後に、勝己がパートナーとして甲斐甲斐しくサポートを徹底し、社会のためにという視線で行動し、子どもを設けてもなおヒーローとして人々を守って見せたその姿が、支え合うパートナーとして理想的だったからだそうだ。
その後、簡単に挨拶してから授賞式ということで新聞社の社長に賞を渡された。そうした形式的なことを一通り済ませれば、いよいよ感想とインタビューのコーナーとなる。
「それでは感想をお伺いしたいと思います!ベストパートナー賞を受賞していかがでしたか?」
二人ともマイクを渡されているので、どちらから発言しても問題はない。こういう場面では、基本的に応利から発言していた。
「特に何をした、というわけではないのでちょっと恐縮ですけど…これからも家族と社会を守れるよう努力していきます。本格的に復帰しましたから、お休みいただいていた分を含めて」
無難かつ優等生なことを言えば、まぁそうだろう、という空気になる。向こうも応利には常識的なことを求めている。ほかのA組ヒーローの癖が強すぎるのだ。
そして、勝己がマイクを口元に持っていく。
昔よりも丸くなり、メディアへの言葉もまともになりつつあるが、それでも粗暴で口が悪い。何を言うのか横目で見ていると、おもむろに、勝己は応利の腰を抱き寄せた。
「へっ、」
「俺たちがベストパートナー賞取んのはまァ当たり前の結果ってとこだな。いい夫婦の日っつーことだし?今日は息子実家に預けてっから、ありがたく二人の時間にさせてもらうわ」
「ちょ、おま、なに言って、」
何を言い出すかと思えば、突然の勝己の甘言に熱が顔へ集まっていく。「キタコレ」とばかりにカメラがこちらを凝視していた。
「午後は仕事じゃ、」
「半休だわアホ」
「てか今日は俺がすでに復帰してんだっつーアピールって言ってたじゃんか!」
「あ?あァー…そんなん、日々ニュースになってんだから必要ねェだろ。今日は、」
お前が俺のモンだっつーのをモブどもに改めて知らしめる日だ。
そう耳元で低く囁いた勝己のニヤリとした表情に、応利は最初から負け戦だったことを思い知り、なるべくカメラに顔が映らないようその逞しい肩口に顔を埋めた。
「おまえ……ほんと……」
「っつーわけで、俺らはこれから速やかに帰宅し二人の時間過ごすから邪魔したらぶっ飛ばす」
ぶっ殺すとは言わなくなっただけマシだが、勝己のそれは一切のインタビューには応じないという意思表示でもある。それがまかり通るのは、ひとえに、聞いているだけでコーヒーを浴びたくなるような惚気話を聞かされたくないメディアとの利害の一致でしかなかった。
羞恥で死にそうになりながらも、早く帰って二人になりたいと思っているあたり、結局、夫婦は似る、といったところなのだろう。