全国公開告白
翌日、応利は出勤時間を夕方以降にすることにした。
昨日は体調不良で病院に行ったので、自然なことではある。医者いわく、一番流産しやすいのは妊娠の最初の方とのことなので、とりあえず今日は激しく動くような仕事はしないつもりだった。
そして今日中に、踏ん切りをつけて勝己に話さなければならない。なるべく早くヒーロー活動を休止しなければならないからだ。
午前中は隠して置いてもいいか、と応利は体調不良を理由に夕方まで出勤しないと勝己含む事務所の相棒によるメッセージアプリのグループに投稿しておいた。すぐに芦戸や切島から心配のメッセージが届き、大丈夫だと返しておくが、勝己からは来なかった。
仕事中だし、と応利は気にしないようにするが、こんな些細なことすらどうしても心に棘のように残る。
もともとの応利の性格は非常にサバサバとしている。そういう意味では、芦戸など女子から「切島より男らしいよね」と言われる。切島がああ見えて繊細なだけだ。
応利は図太い性格で、勝己のような不良にも平気で煽りをかけていけるし、おおざっぱで些細なことは気にしない。
人に干渉するのもされるのも好きではなく、自分の境界線が非常にはっきりとしていて、恋愛においても束縛などはもってのほかだった。
勝己に世間一般の恋人らしさなど微塵も求めていなかったし、その点で言えば勝己は恋人としてクソ野郎なほどだが、勝己なりのやり方で応利を愛してくれている。何より、パーソナルスペースが強固な勝己が最大の縄張りである家に応利と一緒に暮らしているのだ、その愛を疑う方が無理がある。
そういう2人の関係はA組もしっかりと理解しているので、やたらサバサバした2人に心配するような向きもなかった。
しかし、今はそれが仇となっている。
勝己にとって縛られることとなる子供という存在がいていいのかという不安を抱くことになってしまい、いつも通りの対応である今のスルーについても、なんで心配のメッセージを寄越さないのかという気持ちにまでなってしまう。
そういう思考回路の女が嫌い、なんて思っていたような応利であるのにだ。
このままだと、そういう今の自分すら嫌になりそうだ。
応利はため息をつくと、普段の家事に没頭する。ため込んでいた洗濯を行い、軽く掃除をして、夕食を軽く作って冷蔵庫に入れる。
今日は夕方から生放送の番組に出ることになっていて、それも勝己との共演だ。どんな番組だったか覚えていないが、どうせゲストである応利の役割は少ないし、ヒーローとしての言動が軸となることにも変わりはない。応利は昼も過ぎた頃から準備を始めて、都心のテレビ局へ向かうことにした。
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「…本音を言い合うコーナー……?」
パスカル様と書かれた楽屋の中、軽くスタイリストに髪などをいじられつつ、比較的いつも通りのコスチューム姿で待機する。その時間に台本を確認していると、そんなコーナーがあった。
そこまでは普通にコーナーの感想を言ったりリアクションを無難にやればいいだけのようだが、そういえばこの番組はこれが有名だったな、と今更思い出す。
恋人たちの本音トークというコーナーで、片方にランダムで本音を言ってしまう個性をかけて、もう片方がそれに色々と応じていく。甘い展開もあれば修羅場もある、なかなかに刺激的なものだ。
個性の商業利用に必要な国からの許可を受けて個性を使う本格的なコーナーでもあるため、これをやるときは視聴率が非常に高い。
普段は芸能人だが、今回は「あの人気若手ヒーローどうしのビッグカップルの本音に迫る!」というキャッチコピーまであった。これは面倒だな、と応利はつい思ってしまう。
一応台本にも、「秘密を暴露する個性ではないため、守秘義務事項など隠して置きたいことは隠しておいてください。これは相手に対する本音をぶつけるために利用されます」と書いてある。つまり、応利であれば勝己に対しての個人的な本音だけを口にしてしまうということだ。
だから、子供のことをうっかり言ってしまうようなことは、気を付けてさえいれば大丈夫そうだった。
隣の楽屋には勝己がいる。スマホを見れば、すでに番組名がSNSのトレンドに乗っていて、期待度が異様に高いことが窺えた。
そういえば、と応利は思い出す。
今日は勝己とかなり久々に話す。だいたい1週間ぶりくらいだろうか、家でも事務所でもすれ違うか仕事の話を少しする程度で、個人的な会話はかなり久しぶりだ。
これが恋人と言えるのか、なんて暗い思考がまた頭をもたげてきて、応利は誤魔化すようにジュースを飲んだ。