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そうやって面白い範囲で話が進めば良かったのだが、ここまでは普段でもつつがなく進む。毎度番組が荒れるのはここからだ。
「それではどういった感じがお2人にもご理解いただけたところで!そろそろ本題です!」
司会は2人の間に立つと、応利の方を向く。観客も期待した目でこちらを見上げていた。
「ヒーロー・パスカル、恋人である爆心地に対しての不平、不満、言いたいこと聞きたいことなんでも自由にぶちまけちゃってください!」
思っていることを自由に言うという投げやりな展開だ。いつもここで喧嘩かのろけなどが起きる。そのまま別れてしまったカップルすらあった。怖いのはこれが本気のコーナーであることで、この番組はいつも一波乱あるので他局すらニュースにすることがあった。
司会も離れ、スタジオの中心だけがスポットライトで照らされる。静まり返ったスタジオは、カメラ越しに何万という目にさらされている。
そう、多くの人が見ているのに、応利は2人だけのときですら言わなかったことが口をついた。
「……勝己はさ、俺のどこが好きなわけ」
「は…?」
「俺、勝己が俺のどこが好きなのか聞いたことない」
静かな口調で言った応利は、肌で人々から注目されていることを感じる。これは面白い展開になると思っているのだろう。
応利は、この二日で急激に心の中に広がる不安が今ここで、前面に出てきている状態だった。勝己は少しそれをおかしいと思ったようだ。
「お前そんなこと気にするヤツだったか」
「…高校時代から付き合って来て、確かにぶっちゃけ気にならなかった。でもここ1年さ、独立のドタバタで、全然会話もないし、仕事のこと以外で顔合わせることすら少ないし、今だって1週間ぶりじゃん」
「今だけだろ、軌道に乗れば…」
「分かってる。俺だって今がどれだけ重要が分かってんだよ。でも……」
思わず、応利の手が腹に触れる。ここに、人間1人の命が宿っているのだ。他ならぬ自分がそれを産むのだという認識が、じわじわと恐怖に変わる。
同時に沸き上がる不安、子供ともども勝己に否定されたら、という思い、そして何より、そんなことをうじうじと考えてしまう自分が嫌だ。
そんな出口のない思いがぐるぐるとして溢れそうだった。
「…でも、勝己、俺のこと好きって言わないじゃん。高校時代に告白してくれたときからずっと、一度も」
「っ、それは……」
言葉に詰まる勝己。明らかになる事実に、うっすらと観客の「え〜」という声も聞こえる。
違う、こうやって勝己を衆人環境で責めたいわけではない。勝己が素直な性格でないと分かって、それも含めて好きになったのだ、不満なわけでもない。たまたま、今不安になっているだけなのだ。
それでもその不安こそが大きくなりすぎているのである。
そんな爆発しそうな様々な感情に、じわり、と応利の目に涙が浮かんだ。それを見た勝己が動揺し、スタジオの空気も張り詰める。
「…ごめ…っ、俺、こういうの俺自身が嫌いなのに、すげぇめんどくせぇって分かってんだけど、でも、それでもさ…っ、ぅっ、好きって、一回だけでいいから…言って欲しい…っ!」
自覚してしまえば止められないのが涙だ。ぽろりと零れたそれがカメラに映らないようにと咄嗟に腕で目元を隠すが、がっつり人々は理解しただろう。
ひそひそ、ざわざわとスタジオに声が満ちていく。爆心地が泣かした、ひどい、最低、というようなものだ。そういうことがしたいわけではないのに、まるで女のように、と言うのは少し乱暴だが、応利自身が厭う人前で泣くだなんてことをしてしまっている自分が堪らなく嫌だった。これは自分ではないと思ってしまうほどに、感情が言う事を聞かなかった。