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全国生放送で好感度を下げるような真似をする自分なんて嫌に決まっていると自分で自分を追い詰めるようなことに思い至り、すぐ泣き止んで「冗談だよ、」とでも言おうかと思った、そのとき。
「…バカじゃねぇの」
勝己の小さな、しかしきちんとマイク越しにスタジオに聞こえる声が聞こえた直後だった。
思い切り応利は正面から抱き締められ、鼻が勝己の鎖骨にあたる。目線が勝己の喉仏になってしまうほど身長差が開いてしまったのだが、それを再認識しているということは、今、応利は勝己に抱き締められている。
そして、耳元に勝己はまっすぐに言った。
「好きなんかじゃねぇ……愛してんだよ」
「えっ、」
聞こえた言葉が一瞬信じられず、思わず体を離して顔を見上げようとすると、突然応利の口が塞がれた。目の前に迫る勝己の端正な顔。
一歩遅れて、観客のすさまじい悲鳴というか歓声が轟いた。「きゃああああ」という絶叫にも似た声の圧に、思わず応利はびくりと肩を震わす。
すぐに唇は離れたが、正面の勝己はニヤリとする。
「普段からそれぐれぇ可愛いことしてくれていいんだぜ?」
「なっ…おま、…嘘だろ!?」
思わず叫ぶと、スタジオにエンダアアアという音楽が流れ始めた。余計なお世話だ。スポットライトだけだったのが、スタジオ全体に照明が戻り、なぜか観客から拍手が沸き上がる。それにつられてスタジオのひな壇の芸能人たちも拍手した。
司会もすすっと2人のところに戻ってくる。応利は離れようとしたが、勝己の手が腰に回ったままホールドを離さず、結局くっついたままになる。
「いやぁ、どうなるかと思えば!意外な展開でしたね!」
「どこがだよ」
「そりゃあ爆心地がこんなことするとは思わなかったですもん!ねぇパスカル!」
「いや…マジでそれ……」
本気で同意すると、勝己は呆れた様な顔になる。そして司会に方に顔を向けて口を開いた。
「交際してること宣言してんだぞわざわざ。こんぐれぇ言えるわクソが」
「や、だってあれゴシップが鬱陶しいからじゃ…」
「それもあるが、一番は応利に変な虫がつかねぇようにするためだ。俺のは半分は向こうの売名だったのに、お前のゴシップはほとんど向こうがガチだったじゃねぇかよ」
「そうだっけ…?」
「てめぇがそんなだから俺がこうやってけん制してんだろが」
「す、すごくストレートですね爆心地…!」
ぽんぽん出てくる勝己の甘言の数々に、思わず司会の方が照れた。先ほどから観客の悲鳴が断続的に聞こえる。
遅ればせながら、応利も至近距離で繰り出される勝己の言葉の数々に若干火照るのを感じた。
ふと、応利は一気に心が軽くなっているのを感じる。勝己がこうやって直接言葉をくれただけで、思わず泣くほど感情を乱したのが嘘のように落ち着いていた。そこで、応利は一つ、保険のように聞いてみることにした。
「じゃあさ…勝己は、子供欲しいとか思う?」
「いきなりだな」
腰を抱き寄せられたまま聞いてみると、勝己は少し驚きながらも、たいして時間を置かずに答える。
「事務所が落ち着いたら、養子でも取るかって聞くつもりだった」
「養子…」
「…子供なんて別に、なんて思ってたこともあったが…お前との生活が始まってみると、子供がいる生活ってのを無意識に考える自分がいやがった。…応利と、育ててみてぇっていう願望なんだろうな」
子供が欲しい、という言葉ではなく、意味するところがあまり変わらずとも、勝己は「育てたい」と言った。2人の間で、命を育むということを勝己が重視しているのだと分かる。
身ごもった応利などよりも、はるかに勝己の方がしっかりと考えてくれていたのだ。