速すぎるふたり−5
それから1年。
雄英を卒業した応利は、ついにホークス事務所の相棒として就職し、これまで通り2人でパトロールのために博多を歩いていた。
繁華街を歩いていると、道行く人々から声をかけられる。
「ヒーロービルボード3位おめでとうホークス!」
「やりよったでホンマ!」
「応援しとっとー!!」
「おー、ありがとねー」
ついにビルボードで3位に輝いたホークスへの、応援と賛辞だ。福岡を代表するヒーローとして、名誉ある座に立ったことで地元の人々は湧き立っているようだった。
「パスカルも新人ランク1位おめでとー!」
「今日もかっこええで〜!!」
そして同時に、新人ヒーローランキングで1位となった応利へも、人々の祝福がかけられる。一時期のような罵倒は、もはや一切なくなっていた。
ちょっと感慨深いような気がしていると、ホークスがパトロールしているという情報を掴んだのか、テレビクルーが乗っていたバンから降りて走って来た。ビルボード発表の場には出席していないため、コメントを求めに町中を張っていたらしい。
ホークスも心得たように待ってやっていた。その隣で応利も待っていると、すぐにクルーたちがやって来た。
「ホークス!ビルボード3位おめでとうございます!」
「どうも〜」
「人はあなたを『速すぎる男』と呼びますが、その名にふさわしい快挙ですね!」
「そんな大げさな」
ホークスはいつもの緩い笑みで苦笑しつつも落ち着いて返す。あまりランキングに頓着していないどころか、上位でいるのは疲れるから嫌だとすら事務所で抜かしていた。
「今後の抱負などはありますか?」
「ん〜、まぁ、これといって何かを変えるというよりは、まずは目の前のことを着実に解決していきますよ。何より地元の平和から、ですし」
「福岡市民として心強いですね!さて、相棒のパスカルも新人ランキングで1位という華々しいスタートとなりました!感想はどうでしょう?」
すると、マイクはこちらに向けられた。予想していなかったため軽く驚くと、ホークスは「むしろなんで予想してなかったの」とでも言いたげな目線を向けた。
「…応援の声は嬉しく思います。ホークスが言っていた通り、俺も駆け出しですんで、まずは一歩一歩、いち早く皆さんを安心させられる存在になりたいです」
「今回の1位はやはり、昨年に博多駅前で起きた事件でのインタビューが大きかったと思いますが、いかがですか?」
「え〜…」
最近めっきり応利に対する罵倒の声がないのも、こうして1位になったのも、ホークスいわくすべてはあのインタビューによるものだという。
あのあと、応利の発言は全国に広がり、様々なメディアや評論家が、「彼のヒーローになろうという決意の強さに、我々の矮小さが際立ったというのが正直なところです」というようなことを述べたそうだ。
確かにかつてのオリンピックにかわるものとすら称される雄英体育祭だが、あくまでヒーローになるためにヒーロー科があるのだということを、改めて世間は認識してくれたらしい。
そのことを問われ、反応に困る応利に、レポーターは喋り続ける。
「あのインタビューのあと、世間ではパスカルのことを格好いいと称賛する声が大きくなり、今や新人の相棒には考えられない規模でファンがいるとされます。パスカルのまっすぐな軸が、そうさせたのでしょう」
「はぁ…当たり前のことを述べただけなのでなんとも…俺だけじゃなく、ヒーローを目指してる人はみんな、そういう覚悟で努力してますから」
「そうそう、ていうか俺はパスカルへの冷た〜い声忘れないですよ〜?」
そこへホークスが横やりを入れて来た。ずい、とマイクの前に出つつ、さりげなく応利の腰を抱いてくる。
「俺の可愛い可愛い初代相棒に対しての色んな言葉、俺は忘れないんで。パスカルは許してますけど、こ〜んないい子にあんなこと言うなんて考えられないですよ」
「ちょ、ホークスさん!過ぎたことです、」
「1位になったからって、そう簡単にパスカルは使わせないですからね」
応利が慌てて諫めてもホークスは聞かず、むしろその翼で応利のことをカメラから隠すように覆ってしまう。その腕に抱かれ、翼に包まれると、こんなときでも安心して息をついてしまう。
「広告とかCMとか、俺の許可なしに出させないですよ、そんでもって許可出すハードルめちゃくちゃ高くしてやるんで」
「マジ何言ってんだあんた、」
せっかく3位になったのに方々を敵に回すようなことを言うホークスにさすがに焦るが、ホークスはそのまま応利を抱き締めて肩口に顔を押し付ける。完全に視界が塞がれて、耳元にホークスの低い声が響いた。背中に当たる柔らかい感触は翼だろう。
「速すぎるのは俺だけじゃない。俺たち2人に、まずは追いついてから、そしたらパスカルを使わせるか考えますよ」
「ちょっ、うわ、」
するとホークスは応利を抱えて一気に飛び上がった。はためく翼が風を打ち、体が浮かぶ。
「よーし応利、愛の空中逃避行といこうか」
ニヤリ、と楽し気に言ったホークスは、ひいき目に見なくても格好いい。もう、どうにでもなればいい、と応利は諦めて、その身を深紅の翼に託した。