速すぎるふたり−4


「まずい、爆弾が起動してる、応利ッ!」

「はい!!」


ホークスは慌てて、羽根によって爆弾を店から出して通りの上空へ一気に持ち上げる。その動きに、警察や、人質や、野次馬たちの目が追う。

そして爆弾は、繁華街の上空で爆発を起こした。どうやら敵は、一瞬で起爆する程度の覚悟は持ち合わせていたようだ。自殺覚悟だったわけである。
危うく店内で爆発するところだったが、上空で轟音とともに爆炎が巻き起こる。

悲鳴が上がるが、応利は身動きせずに手をかざした。


指向性過圧(D.O.P.)450kPa(キロパスカル)…!!」


個性を使ったことにより、繁華街に向かって吹き荒れようとしていた爆風という名の過圧は応利のコントロール下に入り、爆風の方向は自然の法則を無視して上空だけに向いていく。
地上の繁華街はおろか、マスコミのヘリにすら風を向けず、まっすく直上だけに爆風を向けるのは至難の技だ。


「ったく、なんつー火薬量だよ…」


ホークスの呆れた様な声の通り、爆弾の威力は相当だった。
応利の過圧によって、爆風は空へと向かい、博多駅上空の曇天の雲を吹き飛ばす。直後、ぽっかりと空いた雲の穴から初夏の日差しが繁華街に差し込む。

人々はその光景に目を見張ったあと、すべてを万事解決してみせた2人に、どよめくような歓声を上げた。

「うおおおお!!」「なんちゅう速さや!!」そんな喜びや驚きの声を遠くに聞きながら、応利は個性の反動による頭痛でよろめく。


「おっとと、大丈夫?」

「大丈夫です…」


抜け目なくホークスに支えられる。なんとかよろめくのを抑えて地面に立った。


「俺は後処理に行くからここで待ってて」


応利がしっかりと立つのを確認すると、ホークスは宝石店に向かって歩き出した。仮免である応利は、身柄の拘束と引き渡しについてはヒーローがいるならヒーローに任せなければならない。
警察とともに店内に入っていくホークスを見送ると、さっそく応利の元へテレビクルーがやってきた。有名な大手のテレビ局だ。
マイクを持った女性レポーターが来て、カメラと音響マイクを向けられる。

そして、女性レポーターの手持ちマイクも応利の前に差し出された。


「雄英の圧気応利君、ヒーロー名パスカル!ホークスのもとでインターンをしている彼が!立てこもり事件を一瞬で解決してみせました!さっそくインタビューしてみます!ヒーロー・パスカル、お手柄でしたね!」


にっこりとした厚化粧の女性の笑顔。期待したクルーと野次馬。本当は煩わしいし、脳裏には応利を巡る様々な世間の罵倒もちらつく。それでも、ホークスがあの赤い翼で隠してくれた安心感を思い出した。大丈夫、応利にはホークスがいる。ちゃんとヒーローでいられる。


「…先日の体育祭、応援ありがとうございました。どういう評価だったかは、もちろん知っています。でも、俺はヒーローになるために雄英にいます」


淡々と語り出す応利に、僅かにレポーターの顔が強張る。生放送だから緊張しているのだろう、応利が何かメディアに対して辛辣なことを言うのではないかと。
だが、それは杞憂だ。


「俺は、この力を、ヒーローとして使います。誰かを救けることができるなら、卑怯だと罵られても構わない。それで、誰も傷つかずに、皆を守ることができるのなら…俺は、どんな罵詈雑言でも受け入れます」


傷つかないわけではない。だが、応利には支えてくれる人がいる。だから、人々のためになるのなら、どんなことを言われてもヒーローとして立ち続けるのだ。その覚悟を持って、雄英にいる。

息を飲んだレポーターとカメラマンに軽く会釈をすると、応利も宝石店の方へ向かう。自分の個性で敵がどうなったか、きちんと確認して今後に生かすためだ。
前を向く応利の心は、博多を照らす曇天の間の青空のように、曇りなく明るかった。


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