此処にましませ 狐狗狸さん−1
「おい尻尾の毛抜くな」
「半分狐てめえ袖がサラダに触れてんだよ死ね」
「朝からうるさいぞイソップとパトラッシュ」
「「誰が世界名作劇場だ」」
朝、居間に入ると早々からそんな会話が繰り広げられていた。応利はその喧噪に顔を顰めてから、勝己が用意してくれていた朝食のあるちゃぶ台の前に座った。隣のエリが「おはよう」と言ってくれたので、その頭を撫でながら同じ挨拶を返す。
勝己は相変わらずの半裸エプロンでお玉を持って立っていて、焦凍はちゃぶ台を前に胡坐をかきながら服の裾を霊力で綺麗にしている。洸汰はそんな2人を息を吸うように煽っていた。
「朝からマジでうるせえな……」
「応利、この鮭うめえぞ。ほろほろと崩れる繊細な柔らかさながら口にいれると肉厚で重厚な食感、これぞほんとの″骨のあるヤツ″ってとこだな」
「何勝手に食レポしとんだクソ狐、てめぇが食いづれえってうるせえから骨抜いてやったんだろが骨ねえわカス」
「俺は応利に骨抜きにされたからお似合いだろ」
「やかましいわ」
「コントか……?」
快調にやりとりする2人に仲が良くていいねとあくび混じりに言えば「仲良くねえ!」と揃って返された。
そこへ、襖が開いていかつい赤髪が現れた。最近合祀した氏神、鋭児郎だ。鋭児郎もこの光景を見るなり目を見張る。
「これが朝のテンションかよ」
「おはよ、鋭児郎。言ったじゃん、まともなのいないって」
「なんかあったら言えよ」
鋭児郎はわしゃわしゃと応利の頭を撫でると、勝己に水だけ受け取って出て行った。水と言っても、応利が祝詞を唱えて聖水としたものだ。自分で供え用の水を取っていくあたり、鋭児郎も律儀だ。勝己たちと違い、氏神として仕事はそれなりにあるため、基本的に鋭児郎は″こちら側″には姿を現さない。だが、応利が頼めば、先ほどの通り手助けしてくれるのだろう。
一気に4人も家にメンバーが増えたわけだが、実際、他人から見ると応利しかいないように見えるのだ。見えない、ということがどれだけすごいことなのか、応利は朝の喧噪に思い知った。
***
登校すると、いつも通り挨拶だけして席に着く。あまり他の生徒との関わりがないのだ。神主の子だからか、同年代と話が合わず、あまり深い関係になったことはない。避けられているわけでも虐められているわけでもなく、単に薄い関係しかないというレベルだ。
その日も、たまに近くの席のやつと少し話して終わりだろうと、そう思っていた。
昼休み、いつも通り弁当を取り出して1人で食べようとしたときだった。
「なあ、圧気」
「…?上鳴、瀬呂、なに?」
応利の席にやって来たのは、やたら深刻そうな顔をした上鳴と瀬呂だった。クラスでも賑やかし要員として元気な2人だが、そんな様子はない。
「あの、さ……圧気は、心霊とかそういうの、分かるか?」
「神社の子だったろ、それでさ」
言いづらそうにする上鳴と瀬呂の言葉に、応利は首を傾げた。まさか、この2人からそんな言葉を聞くとは思わなかった。
「……いったん聞く」
まずは話を聞いてみようと言えば、2人は目に見えて安心したようにした。2人は近くの席に腰掛けて、重い口を開く。
「実は、何日か前に、俺らと他の2人で、コックリさんやったんだよ」
「懐かしいな。で?まさか成功した?」
「そうなんだよ!しかも、他の2人は体調崩して休んで……」
どうやら2人は、有名なコックリさんをやったらしい。
一般的に降霊術とされるオカルトであり、基本的には観念性運動や不覚運動という、無意識に筋肉が動いてしまう現象で説明がつくとされる。
たまたま体を悪くしたために怖がっているだけだろうと思ったが、まずはそのまま話を聞いてみる。
「お前らにはなんかあった?」
「いや、まだ……でも、なんか家で物音したり、金縛りにあったり……」
「上鳴だけじゃねえ、俺も、普段絶対吠えない飼い犬に吠えられてさ」
話だけなら、偶然の重なりや気にしすぎと言える。だが、彼らの恐怖だって本物だ。相談されたら、やはり応じたくなるものだ。
「…分かった。ちょっと調べてみよう。放課後、うちの神社来て」