永遠の夜−3


「俺は、あのときテレビで応利さんを心ない批判で傷つけているのを、何とはなしに見ていた。つまらないと言うなら他の学年の試合を見ればいいとくらいにしか思っていなかった。それでも、一度だけ応利さんがテレビに言った言葉が忘れられなくて、それで応利さんに憧れるようになった」

「…そんなんあったっけ」


極力、批判のことには触れないようにしていたため記憶にない。応利が首をかしげると、環は応利の正面に立って見下ろしながら、薄く微笑んだ。


「『誰かを守ることができるなら、どんな罵倒も受け入れる。それで誰かを救けることができるなら、俺はどんな批判も罵詈雑言も受けて立つ』って言ったんだ。去年の冬、俺に同じようなことを言ってくれたとき、あぁ、応利さんは変わらないな、と思った」

「あぁ…そんなんあったな、そういや」


確かに応利はそうコメントしたことがあった。これは恐らく、アナウンサー側から世間の批判の声について聞かれたときに答えたのだ。ヒーローになるという覚悟はそんな批判では覆らないと、自分で自分に言い聞かせる側面もあった。
そして、似たようなことを環に去年言ったのも覚えている。いつも通り自信なさげにする環に対して、たとえ誰に認められず失望されようとも、誰か1人でも救えればそれで十分だろうと言った。


「あの言葉で俺は救われた気持ちになった。今でも自分に自信は持てないけど、そんな自分を嫌いだと思うことはなくなった。応利さんのおかげで、俺は前を向ける時間が長くなったし、それによってさらに向こうへ力を高めることができた。だから、次は俺の番だ」


環はきちんと心に決めた確固たることを話すとき、明朗に口が回る。環にとってこの言葉はいずれも本心で、そしてずっと心にあった言葉なのだろう。

環はそう言うと、首元につけた留め金を外して、フードつきの白いマントを外した。そして、それをバサリと空中に広げると、その中に環と応利の2人をすっぽりと覆い隠した。
色こそ白いが厚い布地のため薄暗くなり、その視界は環しか見えなくなる。驚いて固まる応利の腰を、そっと正面から環が抱き寄せた。身長差が開いて、鼻先が肩口に当たる。


「…俺は、サンイーターだ。応利さんを晒し者にしようとするような太陽は俺が食ってやる。応利さんは自分で輝ける強さと優しさがある人だ、邪な太陽がいなくなった夜に、応利さんは月のようになれると思う」

「っ、環、」


耳元で穏やかに響く、優しく低い声。なめらかなそれは、ダイレクトに心に響いてくるようだった。


「俺が、あなたを隠して守るから。応利さんは、人々を優しく包む光になってくれ」


きっと環は、応利に憧れつつ、応利のようになりたいとは思っていない。環はきちんと、それぞれにそれぞれの役割があって、環を応利では果たすべき役割が異なると理解している。だから、こういう言い回しをしたのだ。自分には人々を勇気づけ照らせる光は出せないから、応利がそうなれるよう、応利を好奇の光から守るのだと。
日没後のような薄暗いマントの中、二人きりのごく狭い世界。そこで環が懸命に伝えてくれた意志と優しさに、応利は唇を軽くかみしめて耐えながら、そっと環の肩に顔を埋めた。


「…ありがとう、環。ほんと、かっこよくなったよ、お前」

「そう、だろうか」

「うん。こんなん言われたらさ、ほんと…好きになったらどうしてくれんの」

「っ、…そうなったら、その……一生、責任を、とらせてくれ……」


先ほどまでのハキハキとして口調は一転、訥々と言った環に、応利はおかしくなって苦笑する。そういうところは、本当にまだまだだ。だが、そんなところが、堪らなく、愛おしかった。それもまた、環が感情に誠実であろうとしてくれているからだ。


「…ん、わかった。あと少しだけ、このままな」

「…好きなだけ、そうしていればいい。俺は、応利さんのそばにいる」

「……そっか。ありがとな」


ぎゅ、と広い背中に手を回せば、環も抱きしめる力を強くしてくれた。もっと強く抱きしめてくれていいのだが、そういう遠慮をなくしていくのは追々でいい。
一生責任をとってくれると言うのだから、少しずつ、2人の距離感をつくっていけばいいのだ。


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