お騒がせ会見−6
「俺は今までこいつらと関係を持ったことはないし、これからもない。絶対にだ。以上」
そう言ってマイクを置いて踵を返そうとすると、爆豪に腕を捕まれた。
「待てよ」
「なに」
「いい機会だしはっきりさせようぜ。俺らの中で誰が一番か」
会見場に響く声。すべてマイクで拾われている。緑谷が開けた大穴から夜風が吹き込んできて寒い。
「ま、どう考えても俺だろ」
「俺だよな、応利」
「僕の方がいいって!」
一斉に詰め寄る3人。応利は呆れてため息をついた。記者たちの目が突き刺さるようだ。
「…つか、なんでこの3人しか選択肢がないんだよ。普通にお前ら以外だわ」
「はあ!?」
驚く爆豪にこちらが驚く。むしろなぜ当然のようにこの3人から選ぶことになると思っているのか。応利は特に自身が同性を好きになる余地のあるタイプだと思っていない。
「お前らまさか、俺を相棒にしようとしてたの、これが理由か?」
「あぁ。むしろ気づいてないのお前だけだったぞ」
「下心あるんだなって、僕たち互いに分かってたからすごくけん制したんだ」
悪びれることもなく言う2人にさらに呆れる。個性の何かで求めるものがあったのだと思っていたら、実情はこんなことだったのだ。
「…それならなおさら飯田のとこでいいわ」
「なっ、お前飯田のこと好きなのかよ!」
爆豪は腕を握る力を強めて眼光を鋭くする。もうそれしか頭にないようだ。才能マンはどこにいったのか。
「ちげぇわアホ。そんな理由で移籍するかって言ってんの」
「じゃあ、応利はどんなヤツがタイプなんだ?」
すると轟はそんなことを聞いてきた。応利が視聴者だったら、楽しみにしていたゴールデン番組を潰して何を見せられているんだと思うことだろう。
「…涙腺脆くなくて、すぐ暴言吐かなくて、天然じゃないヤツ」
律儀に緑谷、爆豪、轟と視線を移しながらゆっくり言ってやった。すると、緑谷はぶわっと目に涙を溜め、爆豪は眦を吊り上げ、轟は首を傾げる。
「ひ、ひどいよ応利君…!」
「んだとこらぶっ殺すぞ!」
「天然じゃないってどういうことだ?」
「そういうとこなんだよなぁ…」
頭を抱えるようにしてため息をつく応利に、だんだんと記者たちが憐れむような空気になってくる。全体でよく雰囲気を分かりやすく醸してくれるものだ。
だがもうここでグダグダとするべきではない。「じゃあ」と言って応利は帰ろうと再び体を元いた部屋に向ける。
すると、先ほど質問していた女性記者が立ち上がった。マイクを持って、きちんと会見の体裁を守っている。そうでなければこれが会見だと忘れそうなほどのカオスだ。
「ヒーローパスカル、その、お気持ちは察するにあまりあるのですが、ここはきちんと3人の気持ちを受け止めるところから始めるべきではないでしょうか?ちゃんとタイプを教えてチャンスを与えるなどした方が、我々市民としても安心できますので、社会の精神衛生のためにも、3人の安定したパフォーマンスを維持することに貢献していただきたいのですが…」
もはや質問というよりはアドバイス、懇願だ。このまま失恋で不能状態になるかもしれないトップヒーローたちと、それによって不安に陥る社会を案じてのことだ。そんな大それた話ではまったくないはずだったのだが、こう言われてしまうと応利もそうせざるを得ない。やはり応利もヒーローなのだ。
「…はぁ、そうですね。おっしゃる通りです」
応利はそう言って、3人に視線だけを戻す。体は踵を返したままで、もう帰る際だという姿勢は変えない。視界には、どこか期待したように見てくる3人がいる。その様子がおかしくて、思わず口元に笑みを浮かべてしまった。
「…俺は、好きになったヤツがタイプってなんの。だから、今後態度で示せば、考えてやるよ」
それだけ言って、いよいよ応利は会見場から出て行った。ちなみに、応利が壊した分は爆豪の事務所に請求するようスタッフに言っておいた。
後日、この会見は何度も特集され、「三つ巴のパスカル争奪戦!」と面白おかしく報道された。SNSも、3人のファンが互いに自分の推しがいいと論争を繰り広げ、一部の層はカップリングに走って何やら本を売りさばき、鎮静化には程遠かった。最も荒れたのは応利のファンだったというが、次第に誰が応利を一番幸せにしてくれるか議論するようになっていった。
さらには、応利が去り際に微笑みながら去っていく様に見惚れたという者が続出したらしく、雑誌で「魅惑の流し目!小悪魔ヒーローパスカルに学べ!」と特集された。
結局応利の外堀を埋められるような形になってしまい、世間を騒がせ応利に迷惑だけを残していったあの3人を、応利はしばらく許さなかったのは言うまでもない。