お騒がせ会見 クリスマス編−1


●クリスマスの話


「インゲニウム事務所、共同イメージアッププロモーション企画書…?」

「そうだ。圧気君にはぜひ協力して欲しい」


まじめな顔で飯田が渡してきた書類には、ゴシック体でそうタイトルが書かれ、いら○と屋の無料イラストが絶妙にセンスのない位置に配置されていた。クリスマスモチーフなのは、ツリーでなんとか分かるし、時期的にも分かる。だがトナカイではなくこれは鹿だ。
文責:インゲニウムとあるから飯田のお手製だろう。端的に言うとダサいし、有体に言うとダサい。


「具体的に何すりゃいいの?」

「サンタだ」

「え、なんて?」

「サンタだ」


まじめな飯田のそのメガネを叩き割りたくなったのは言うまでもない。



***



雄英高校卒業後、同期のヒーローたちが次々と独立していくなか、応利はいつまでも飯田の事務所に居座り続けていた。圧力と応力を操るという汎用性の高い個性もあって、世間ではいつ独立するのかと期待されていたし、飯田の事務所にやってくるインターン生なども応利の事務所に入りたいと言ってくるし、何なら飯田にすら「独立しないのか」と言われる。
だが、応利は事務所を持って働くスタッフたちの生活に責任を持つことを避けたい気持ちだし、飯田の事務所は居心地が良いのでこの場にいる。

とりわけ最近は同期で独立した爆豪、轟、緑谷から逃れる上でこの事務所に在籍していることが功を奏している。

この3人は、ある日爆豪の二股疑惑会見において、全国生放送で応利への気持ちを暴露して世間を騒がせた。それ以来、ことあるごとに応利を自身の事務所に引き入れようとしてくるし、交際を求めてくるのだ。
世間はトップヒーローたちの騒ぎを面白おかしく取り上げ、むしろ功績を上げて応利を引き入れようとする3人の働きで目に見えて犯罪発生率が下がっていると好意的だ。

そうして外堀を埋められても、応利にはインゲニウム事務所の筆頭相棒という肩書がある。これがある限り、応利の貞操は安泰なのである。

そんな事情もあって、応利としても色々な意味で世話になっている飯田の頼みはあまり無下にはできない。渡された企画書も、サンタをやれというとんでもないものだったが、飯田が真面目だからこそ話を聞いてやろうという気になった。


「…イメージアップでサンタってのは分かる。でもなんで俺?自慢じゃないけど俺の人気ランキングなんか高いし、そもそも飯田がやらなきゃ事務所のイメージアップになんなくね?」


応利は相棒ながら、その働きは独立事務所1つ分を優に超えるため、なぜか人気ランキングなどで取り上げられて上位に来る。気圧を操る攻撃を主体とすることもあって、低気圧による不調を改善する医薬部外品のCMシリーズをやっていたりもする。
「君の副交感神経を守りたい」という謎のキャッチフレーズでおなじみだ。世の中どうかしてると思う応利である。


「確かに、君はもともと人気だし俺がやるのが良いだろう。でも、俺はこのコスチュームのイメージが強い、サンタの格好には向かないし、したところで子供たちには気づかれない可能性も高い」

「あー…それは一理ある」


飯田のコスチュームは騎士のようなごついもので、サンタの服は着られないし、フルフェイスのヘルメットをしていることもあって顔を出しても気づかれない可能性も高い。


「俺の事務所は誠実さと真面目さが売りだが、それが強すぎて堅苦しい印象があるらしい。それを軟化させることが目的だから、こういうイベントを企画したという実績だけで十分なんだ」

「なるほどね」


そういうことなら、飯田の事務所のトップ相棒として知られる応利が行っても差し支えないだろう。対象となる子供たちのことも踏まえれば、応利が行うのはベストの選択肢だと分かる。


prev next
back
表紙に戻る