お騒がせ会見 クリスマス編−6


すべての学校を回り終えたが、仕事はこれで終わりではない。馬は轟の事務所の相棒が借りていた農場に返しに行き、2人は車に乗ってインゲニウム事務所に戻る。事務所に着くころには日も沈みつつあり、寒さも一段と強まっていた。

ネットニュースやテレビではすでに今回の企画が報じられていて、喜ぶ子供たちの姿も画像として載っていた。応利が投稿した爆豪とのツーショット画像も相当拡散されている。

それらを確認してから、車が事務所に着くと、2人はエントランスに入る。そこには緑谷と爆豪がすでに待機していた。


「おせぇ」

「だから時間通りだって言ってんじゃん」


爆豪は相変わらずで、緑谷は苦笑した。そこへ、2人が戻ったのに合わせて飯田がやって来た。


「皆今日はありがとう!お疲れ様だった!ここからもうひと踏ん張りだが、よろしく頼む」

「うん!任せて!」


緑谷は勢い来んで言うが、応利としては内心まだあるのかとため息ものである。だが、これは仕事、金銭的対価もある。何より、ヒーローとして皆を喜ばせる仕事をするのだ。


「頑張るよ、まぁ俺はそんな大変じゃないけど」

「君は企画の修正のところでとても良い案を出してくれたからな!気にすることじゃないさ」

「あっ、ちょ、」

「修正?」


轟が首を傾げると、飯田は深く頷いて律儀に説明する。あえて応利は言わなかったことなので、少し恥ずかしい。


「俺は学校をランダムに選ぶ予定だったんだが、圧気君がランダムだと公表しつつ実際には選ぶよう修正してくれたんだ」

「え、そうだったの?」


驚く緑谷や3人に、応利は曖昧に頷いた。

実は今日回った学校は、メディアにはランダムと言ったが、実際は作為的に選んでいる。それは、例えば児童養護施設が併設された学校だったり、いじめが発覚して対応している学校だったり、障碍者支援学級を設けている学校だったり、外国人が多い学校だったり、そうした事情のある学校だった。
事前に学校側と協議してあり、ヒーローである応利たちが声をかけることが有効な子供たちは教師がそれとなく応利たちの近くにそうした子供を連れて行き、代表としてプレゼントを渡すようにしていた。
「俺がついてるからね」というような言葉は、周りのいじめている子供たちへのけん制だった。他にも、事情に応じた対応をした。

その修正内容を最初から3人には伝えていたため、それが応利の発案とは知らなかったらしい。


「別に、メディアにでも言えば良かったんじゃねぇか」


爆豪は釈然としなさそうに言うが、応利は首を横に振った。


「別に、言いふらすことじゃない。その子にとってプラスになれば、それで十分だ。俺たちのしてることが、100%世間に知られる必要もないし」

「あー好き」


すると突然、緑谷がそんなことを言い出した。いきなりなんだこいつ、と思っていると、いつもの恍惚とした感じというよりは、優し気な、本当に好きだ、という感情が伝わるもので、不覚にもドキリとして目を逸らした。
轟は無言で頭を撫でて、爆豪はそれをはたき落としてから自分もぐしゃぐしゃと応利の髪を混ぜた。


「うわ、ちょ、なに」

「なんでもねーわ。おら、早く行くぞ」


爆豪が先にエントランスの外へ向かう。応利は3人の微妙に変わった空気がよく分からなかったが、仕事モードに切り替える。そして、4人揃ってエントランスの外へ出た。






「いっ、おい半分野郎てめぇ!!」

「わっ、かっちゃん動かないで危ない!!」

「うるせぇぞ、幼馴染カップル」

「「カップルじゃない(じゃねぇ)!!」」


夜の都心上空、聖夜のサイレントナイトなどこのメンバーにはまったく関係のない言葉だ。
爆破でメインエンジンの役目を果たす爆豪と、爆豪と肩を組んで横に並ぶ緑谷。緑谷は途中でビルの壁面を蹴って推進力を足している。
その上に乗るのが轟と応利で、轟は右手で氷をずっと出し続け、応利はそれに触れて応力を変化させ粉々にしていく。

粉砕された氷は、確実に細かな結晶となって街へと降り注ぐ。そう、これは個性を使った人工降雪である。ホワイトクリスマスを、最後に大人たちにプレゼントして企画は終了することになっているのだ。


「お前ら全員うるせぇわ、てかマジ冷たい」

「温めようか」

「僕の手握る?」

「っざけんなてめぇら!」


応利が一言いえばすぐ3人とも反応し、バラバラのことを言っては言い返す。やかましいことこの上ない。


「クリスマスにこんなむさ苦しい奴らと社会奉仕かぁ…メンツさえ良ければなぁ…」

「あ?!不満か応利!!」

「不満しかねぇわ」


ぞんざいに返す。いつもなら3人ともまた喚くところだが、今日は静かだ。おっ、と思っていると、轟が口を開いた。


「今晩は4人分で高級フレンチを予約してある」

「え、それ俺もってこと?なんでお前らと…」

「おいデク、今日のワインのボトルの値段言ってやれ」

「一番安くてボトル5万」

「なっ…!?」


ボジョレーヌーボーやらロマネコンティやらとは違うとはいえ、ボトル5万はリアルに高い。言葉を失う応利に、3人は畳みかけた。


「轟、シェフのスペック」

「各国首都の最高級ホテルを歴任してきたトップシェフだ。ちなみにデザート担当はフランスのパティシエコンテストのショコラ部門で優勝している」

「メインはA5ランクのステーキだよ!特別に応利君の好きなスペインワインも用意してくれてる!」

「一番頑張ったヒーロー・パスカルは財布開く必要ねぇらしいな?」

「俺お前ら大好き!一緒にクリスマス過ごせて幸せだわ!!」


応利の好みを完全に知り尽くした3人の策によって応利は簡単に頷いた。ころっと態度を変える応利にほくそ笑む3人は、このとき酔わせてレストランのあるホテルの部屋に連れ込む予定だったらしい。
しかし、実はこの中で最も酒が強いのは応利であることを知らなかった3人は、酔わせようとワインを頼みまくるうちに想定の倍値段が張ったことに涙した。
だが同時に、酔った3人はホテルの部屋で応利に介護されるという経験ができたため、結果オーライだったと後に3人は語った。


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